俺は女が好きだ。
最近は、やたらとダイエットだなんだと、とにかく細くある事が美しいとでも思っているのか……骨皮筋子か!と思わず突っ込みたくなるくらい細い女よりも、そこそこにふくよかで、抱きしめたときに柔らかい感触を楽しませてくれる女の身体が好きだ。
などと、そんな言い方をすれば、大きな誤解を招きそうだが。
とにかく!俺にはどうしたって、抱きしめたときに柔らかさを感じられない男を、この腕に抱きしめるだなんて事、想像すらできない。
いや、別にそれが悪いと言うわけではないし、そんな事を言うつもりもないさ。
そもそも、自分と同じ性を持つ相手を、そういう意味を含んで抱きしめたいだなんて、この26年の人生の中で思ったことなどないし、考えたこともない。
ただ、入社以来気の合う友人が……プライベートでもそこそこ仲良くしている友人の相手が、実はそいつと同じ性を持つ、もちろん俺とだって同じ性を持つ男だったなんて。
いくらそういった事には偏見もなけりゃ興味もなかった俺だって、親しい奴がそうだとなれば、多少の動揺はあって然るべきだと思わないか?
確かに、最近おかしいなとは思っていたんだ。
元々いつも笑っている奴だったけど、フロント業務から営業畑に移った光流は、そこで更に磨きをかけ培った笑顔を、惜しげもなく客を相手に披露していた。
その笑顔に、何か不自然さを感じたわけではなかったけど、それでも時折見せる、ちょっとした隙をつくように曇る表情に、こりゃあ女と何かあったか?なんて、いらぬお節介を想像した事はあった。
でも、元々俺達は一緒に飲みに行っても、あまりお互いの恋愛について語り合った事なんてなかったし、ふと思いついた時に俺が今付き合っている女の話をする程度に留まっていた。
あいつは、自分の色恋について、特別何かを語ろうとはしなかったし、俺だって別に他人の色恋に興味はなかったから、その時だって深く突っ込んだりは当然しなかったのだが。
それにしたって、見た目明らかに痩せ細っていくあいつの姿に、正直言えば気にならなかったわけじゃない。
それでも、本人が話したがらない事を、無理に聞き出す趣味は俺にはなくて。
打ち明けられなくとも、俺達と飲みに行くことで、少しでも気が紛れるのならそれでいいと……友達がいのない冷たい奴だと思われるかもしれないが、俺は本当にそう思ってたんだ。
でもな〜…まさかその相手が、あの俳優の一ノ瀬 新だなんて、さすがにそこまでは想像も追いつかないもんな〜…。
ただの友達というにはどこか不自然な態度。それをなんとなく感じたのは、酔い潰れた光流を半分担ぐようにして、あいつのアパートまで送り届けた日。
あいつの部屋の前に立つ人影に驚いて、目深に被られたニット帽と、掛けられたサングラスの下に見えた素顔に更に驚いた。
そして同時に、あの傍若無人な態度に腹立ちを覚え。それにどこか怯えているようにすら思えた光流の態度に、疑問を感じながらも確信めいた思いがよぎった。
『本当に大丈夫なんだな?』
あの時俺が向けた問いかけに、光流は小さな笑みを浮かべて頷いたけど。そんな俺達のやり取りを、見つめるなんて優しいもんじゃない……ずっと睨み付けてきていた一ノ瀬の瞳には、俺に対する明らかな不審と嫌悪の感情が読み取れた。
正直、第一印象は最低最悪だった。人気俳優ともなれば、こんなに態度がでかく偉そうなものなのかと、不快感を感じたのは確かだった。
同時に、完全に怯えているくせに、それでもどこか縋るような瞳で一ノ瀬を見る光流が、どうやら本気で惚れている相手てのがこいつらしいと気付き。
深くは追求しないくせに、それでもこういう勘だけはやたらと働く自分自身を、本気で恨みたくなった瞬間だった。
別にカッコつけるつもりなんてないが、誰が誰を好きだろうと、正直俺には関係ない。
それが例え、世間で言うところの同性愛であろうとなかろうと、他人の色恋の中身なんて興味はない。
ただ、俺は光流の事が好きだった。
もちろんそれは、当たり前だが恋愛感情が絡んだものであろうはずもなく。
ただ本当に、これまで恋人友人に関わらず、他人に対してそれほどの興味を抱いた事がなく、全てをそこそこに収めてきた俺にとって、初めて心からの好感を持てた相手というのが光流だったんだ。
昔から、この物怖じしない性格のせいか、俺の周りに集まる奴らはどこか機嫌を伺ってくるような奴ばかりだった。
別に、それに不満を感じるわけではなかったが、見え見えのご機嫌伺いに、そんな奴らに心を許せるはずもなく。またそこに執着しなければいけない理由も俺にはなかった。
いろいろ詮索をされて面倒くさい思いをするくらいなら、そこそこの付き合いだけで十分だったし、元々たいした悩みや挫折の類を経験したことのない俺にとって、親友なんて存在も煩わしいだけだったんだ。
そんな性格の俺にとって、自分の事も多くは語ろうとしない代わりに、俺の事も詮索しようとはしてこない光流の性格は心地よく。
でも、深い部分を語ろうとしないだけで、あいつと交わす取り留めのないバカ話は、それだけで楽しいと思えた。
それは、これまでただ他人の話を受け流してきた俺にとっては、学生時代にだって経験してこなかった新鮮な感覚で。
例えそこに会話がなくとも不自然ではない、そんなあいつとの間に流れる空気が、俺は好きだった。
もしかしたら、親友ってのはこういうものなのか?なんて、そんならしくない事だって考えたりもしたんだ。
だからこそ、笑ったり拗ねたり、どちらかというと波のある感情を表に出さない俺とは違い、自分の感情を比較的素直に出すあいつが、あんなにも怯えた……そのくせ縋るような視線を向ける一ノ瀬に、関係ないと思いながらも感じる憤りは本当で。
俺は、2人の間にある関係なんて何も知らなかったけど。知る必要だってなかったけど。
あいつを見つめる光流の切なさと悲しさを宿した瞳も、あいつを思い出しているのだろう、光流が浮かべるどこか虚ろな表情も、正直見ていられるもんじゃなかった。
だから俺は、余計なお節介だとそれを理解しながらも、それから数日後飲みに行った後でうちに来たあいつの、鳴り続ける携帯に手を伸ばしたんだ。
すぐ隣で眠るあいつの、眠っていてもなお苦しそうに歪む表情が痛すぎて。
しかしな〜それこそまさかな〜……。
確かに、一ノ瀬を挑発するような事を言ったのは俺。
電話越しにでもわかった、あいつのどこか狼狽を含んだ声色が、ひょっとしたら……という予感をこの胸に走らせたから。
でもだからと言って、一ノ瀬がすぐに行動に出るだなんて、さすがの俺も思ってはいなかった。
突然会社に来たあいつが、まるで親の仇でも見るかのような視線を俺に向けてきて。
そこには明らかな嫉妬の感情が見てとれたから。あんなにも憎たらしく思えたはずの一ノ瀬が、だからこそ意外な一面が妙に可愛くて。
なんだよ。結局そういう事かよ……と、思わず呆れてしまったのも本当だった。
結局は、お互いの気持ちがすれ違っていただけで、傍から見れば焦れったい2人の関係も、なんとかなりそうじゃんなんて、これまた柄にもなくホッとしてしまった俺を待ち受けていたのは、もう本当にキャラじゃねえから!と叫びたくなるような事実で。
だってな?いくら偏見はないって言ってもさ、こんなにも女が溢れている世の中で、誰がいつも一緒に飲みに行ってる俺以外の2人の恋人が男なんだって、それを想像する!?
しかも、その事実を隠そうとしていた光流とは違って、全く悪びれた様子もなく、平然とカミングアウトなんてしてくれちゃった西宮さんに、さすがの俺だって、その衝撃に声を上げて驚いちまったっての。
いや……別に、恋人が男だからって、それを後ろめたく思う必要なんてないと思うし、堂々と「言ってなかったっけ?」なんて言ってしまえる西宮さんが、カッコいいなと思ったのも本当だけど。
だけどやっぱり、初めて知ったその事実は、俺にとっても衝撃的なものだったんだ。
俺達とは違って、西宮さんは飲みに行く度に一緒に暮らしている恋人の惚気話を聞かせてくれて。
でもそれは決して押し付けがましい話ではなく、あまりの西宮さんのケイさんへの溺愛っぷりに、聞いているこっちが照れくさくなってしまうくらいだった。
でもまさか、そのケイさんが男だったとは……。
いくらそうそうの事では動じないと、そんな自負があった俺だって、これにはさすがに閉口するだろう……。
「ちょっと!何をずっと考え込んでんのよ!?」
目の前に横たわる、ほんの少しふくよかな、触れればぷにぷにと柔らかい身体を指先で突付きながら、つい物思いに耽っていた俺へと、鋭い視線と尖った言葉が投げつけられる。
「やんないならどいてよね。脱がせといて、ただ見てるだけって、いつからそんな変な趣味に走ったの?」
「わりぃ、わりぃ」
普段は比較的大人しいこの女も、さすがに自分だけ脱がされて、いつまでも事に及ぼうとしない俺に痺れを切らしたらしい。
下から睨み付けてくる視線が、それでも少したれ気味の目ではたいした迫力なんて感じられない。
「そんな怒んなって」
「何それ……純が悪いんでしょ」
「ごめん。愛してるから許して」
ほんの少し剥れたその頬に、自分でも少し薄っぺらいかなと思いながら囁く、愛の言葉と共に小さなキスを落とす。
それだけで、うっとりと瞳を閉じるこいつは、ちょっとおめでたいと思いはするものの、なんだかんだで2年以上続いてる、一応今は恋人と呼べる唯一の存在。
結婚を考えるほどに、こいつの事を愛しているのかと問われれば、はっきり言ってしまえば否定させてもらうし、そんな薄っぺらい約束だって俺は口にした事はない。
こいつの事は、それなりに可愛いと思えるし、好きなのかと聞かれれば、今は一番好きな女かなって感じだけど。
相変わらず大して他人に興味のない俺にとっては、どうしてもいてくれないと困る存在というわけではない。
きっと俺は、他人に愛情を抱くという意味では、どこかそこらへんの感情が欠落している類の人種なのかもしれないが。それでも、相手を思いすぎて身を滅ぼすよりはマシかなと思ってる。
まあ、そこまで思う相手がいる奴を、別に否定するつもりもバカにするつもりもないけどね?光流や西宮さんのようにさ。
あの2人は、あれですげえなって思えるところも、カッコいいなと思える部分も、俺なりには感じているし。
ただ、俺には絶対無理だって事。そんな疲れる恋愛は、やっぱりどうしたってキャラじゃない。
こんな俺に対しても、今目の前にいるこいつは、いつか……とそんな望みを抱いているのだろうが。正直に言ってしまえばそれは面倒くさい。
それを口にしてしまえば、「最低男」の称号を付けられてしまうだろうが。そうなったらそうなったで構わないと思えてしまう俺は、やっぱり真剣な気持ちではこいつに向き合えないと思う。
「愛してるよ」
「純・・・…」
そんな事を思いながら、それでも薄っぺらい愛の言葉を囁いてしまえる俺は、今目の前にある快楽に関しては、人一倍素直なだけだ。
そんな開き直りの気持ちと共に、隙があれば最近では将来の事を語りだそうとする女の唇を、少し強引に塞いだ。
薄々感じてはいるんだよな……今までに比べたら、2年という長い時間を一緒に過ごしてきたこいつとの関係も、そろそろ潮時なんじゃないかって。
だってやっぱり、どう考えたって俺は、こいつと一生を共に歩んでいく未来を想像できない。
それでも、また一から関係を作り上げていく事が、些か面倒に思えてしまうから、これまで何とか誤魔化しながら続けてきた。
でもそれも、いい加減限界かもな……なんて、聞かれたら世界中の女を敵に回しそうな事を考えながら。とりあえず今は差し出された快楽を追いかけるようにして、そのふくよかでしなやかな肢体を抱きしめる。
いずれ……そう遠くない時間の中で訪れるだろう、この女との別れを思い描き。
そして、形は少し違えども、あの2人のように一生を添い遂げたいと思えるほどに愛せる、唯一無二の存在が、この俺にもいつかできるだろうか……と、そんな不届きな事を考えながら。
<<fin.>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m
これより下は、あとがきコメントになっております。↓
<<comment>>
まずまずまず!お詫びをさせてくださ〜い(>_<)
12万HIT時に頂戴したキリリク小説……書き上げるまでに、とんでもない時間を要してしまいました。
リクエストをくださった董子様!お待たせしてしまい、本当に申し訳ございませんでしたm(__)m
さてさて…今回のリクは、ありがたいことに、一介の脇役に過ぎない小峯にスポットを当ててくださいました!
ノーマルな彼の視点から見た、光流と西宮の恋模様……というほど大げさなものではありませんが(笑)
BLのジャンルを掲げていて、全くBL要素のない話でいいのかしら……と、一抹の不安は拭えませんが。
それでも、管理人もちょっとびっくりなくらい、小峯って人気があったので、少しは楽しんでいただけるといいな〜…と、またもやそんな弱気な希望だけ(爆)
しかし…今回書かせていただいて、こんな小峯だからこそ、ちょっと彼氏を作ってみたいとか…思ってしまったりして〜vv
いやね…小峯はやっぱりノーマルで!というお声が多ければ、そんな私の妄想はスルーの方向で。
でもでも!いいんじゃない?ちょっと読んでみたいかも〜…なんてご意見をいただいちゃったら、もしかしたら書いちゃうかも〜〜vv(え?)
もし、今後小峯を主人公にして書くことがあるとして……だったら小峯は攻めか受けか!?
こそっとご意見なんぞを聞かせていただけると嬉しいな〜vv
いや…書くと決まったわけではないですが(^_^;)
BL要素のないこんな小説も、書いてる本人はめっちゃんこ楽しみながら進めさせていただきました♪
機会を与えてくださった董子様!本当にありがとうございましたvv
少しでもご期待に副えているならば嬉しいですvv
お読みくださった方々には、少しでもご満足いただけたかしら?
こそっと…感想なんかお寄せいただけると、管理人泣いて喜びます(*^_^*)
キリどころがわからずに、やたらと長い1話になってしまいましたが……
最後までのお付き合い、ご拝読いただきましてありがとうございましたm(__)m
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