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« inside monopoly act.3 | あらすじ »
洗面台の前に立ち、少し震える右手首を左手で押さえ込む。指先に乗せた小さなレンズを眼前に翳し……。
「む…無理かも〜……」 今まで、一度として挑戦しようとは思わなかったコンタクトレンズに、それでも挑戦してみようと思ったのは、単純に晴彦が自分のこの顔を好きだと言ってくれたから。 そんな理由でと思われてしまうかもしれないが、たったそれだけの事が大きな意味に思えてしまうくらい、すでにこの時の圭一の気持ちはそれだけ晴彦へと傾いていた。 とは言え、初体験のコンタクトレンズ。店に買いに行った時は、応対してくれた店員がつけてくれた。それだって、他人の指先が瞳に迫る恐怖に、正直手に汗を握る思いだったのだ。 それを今、まさに自分の手で行おうとしているのだが、その恐怖と言ったら半端ない。目の中に指を突っ込むだなんて、これを恐怖と言わずして何と言う!そんな叫びをあげたくなる気持ちを押さえ、萎えかけた勇気を再び奮い起こす。 眼鏡を外した圭一を見て、晴彦がどんな笑顔を見せてくれるのか、それだけを心に思い描きながら。 そうして、なんとか汗ばむ手を抱えながらも、あの小さな小さなレンズを眼球に装着することには成功した。かかった時間は実に30分以上。最後には、上げっぱなしで疲れきった腕が、それまでの恐怖とは違った意味で震えだす始末。 「慣れるのかな〜…」 ポツリと呟いた自分の声は、思わず吹き出してしまいそうになるくらいか細く弱々しくて。 ようやく装着したというのに、今から外すときのことを考えて、それだけでゾッとしてしまう気持ちをなんとか落ち着ける。 そうして改めて覗き込んだ鏡に映った自分の顔に、懐かしいような恥ずかしいような、複雑な思いを感じてしまった。こうして眼鏡を外した自分の顔を、ここまではっきりとした輪郭を伴って見つめるのはもう何年ぶりになるだろう。 別に、目に特別な病気を抱えているわけではない。もうこれは、父方の遺伝とでも言おうか、幼いころから眼鏡を掛け続け、少しずつ悪くなっていく視力を前に、中学生になってからはこうして鏡の前に立っても、眼鏡を外してしまえば自分の顔ですらはっきりと見えなくなってしまっていた。 もちろん、先日の晴彦のように、鼻先がついてしまいそうなほどに鏡に近づけば話は別だが。 「───…」 そんな事を考えて、突如脳裏に甦ってきた先日の晴彦の行動。あれに、特別な意味など含まれていない事はわかってる。それを意識してしまう自分がおかしい事だってわかってる。 それでも、あれは反則だ。意識している相手にあんな行動を取られては、狼狽えるなという方が無理ではないか。 「軽く犯罪だよ……」 またポツリと呟き、同時に漏れ出す小さな笑み。それだけで幸せだった。 急激に縮まった晴彦との距離。毎日楽しそうに笑う晴彦が、今誰よりも近くにいる事を許してくれているのが自分なのだと言う事実。 性格だってけして明るいとは言えない、こんな冴えない自分のどこを、そこまで気に入ってくれている理由はわからない。それでも、共に過ごす時間の中で、急速に晴彦へと傾いていく気持ちに嘘はつけなくて。最初から叶うことのない想いだという事はわかっている。だからこそ、過剰な期待を抱こうなどとは思わない。 ただ、傍にいられるだけでいい。それだけで十分幸せだと、それ以上を望むことなど絶対にないと、少なくともこの時の圭一にはその自信があった。それは、人とは違う性癖を持った自分自身を受け入れたとき、同時に生まれた諦めの感情からくる思いだった。 だから、思いがけず与えられた今のこの時間が、何よりも幸せなものだったのだ。 同じ教室で授業を受けるのは、1週間のうちでたった1コマだけ。広い大学のキャンパスの中、学部の違う晴彦とは約束でもしない限り、それ以外で会えることはほとんど皆無に等しい。それでもいつの頃からか、学食で昼食を共にすることが当たり前になっていた。 昼前の授業を終え向かった学食で、さっきからドキドキと煩い胸の鼓動を抑えながらキョロキョロと周りを見回す。しかし、探す相手を見つけられず、まだ彼らがこの場所に来ていないことに何故かホッと安堵の気持ちが広がった。 何をそこまで緊張する事があるのか。今更、緊張しながら会う相手でもあるまいしと、そんな自分の行動に苦笑しながらも、やはり晴彦を想う時に自然と高鳴る胸の鼓動は誤魔化しきれない。 「ふぅ〜…緊張するな〜…」 思わず漏れた、自分のそんな言葉にまた自嘲を漏らし、いつもなら先に買い求める食券の存在など綺麗に忘れて窓際の席へと腰を落ち着けた。 「あっれ〜?ケイちゃん!?」 何度か深呼吸を繰り返し、ようやく窓の外へと視線を向けたとき、突然掛けられた声にビクンと身体が跳ね上がった。そして、自分に掛けられた声が待ち望んでいた晴彦のものだと理解した瞬間、カァーッと顔が熱くなってくる。 「本当だ!一瞬誰かわかんなかったぜ」 「なになに、眼鏡は?どうしちゃったの?」 そして、同時に聞こえてきたチュウ達の声にようやく視線を向ければ、学食の入り口からこちらに向かってくる4人の学生が、圭一に向けてにこにこと笑顔をその顔に貼り付けていた。 その中でも、一際目立った笑顔を浮かべていたのは、他でもない晴彦で。 「コンタクトにしたんだ?」 「う…うん……変じゃ、ないかな?」 「え〜?ぜ〜んぜん!思った通り、すっげえ可愛いんでやんの」 ウキウキと、そんな擬音が聞こえてきそうなくらい軽快な足取りで近づいてきた晴彦が、座ったままの圭一の顔をひょいと覗き込んできて。そんな行動にまたドギマギとしながらも不安そうに問いかければ、大げさなくらい首をブンブンと横に振った晴彦が、ニカッと笑いながらわしゃわしゃと圭一の頭を撫で回してくる。 「うんうん!男にしとくのがもったいないくらい可愛い!」 「似合ってんじゃん」 「よ〜っし!ケイちゃんの戦闘体勢は整った!今夜は張り切って合コンだぁ〜っ!」 友人達に声を揃えて褒めちぎられ、どうにも居心地の悪い思いでぎこちない笑みを浮かべれば、チュウの妙に張り切った声が耳に届き。 「俺は合コンは……」と、いつものように反論しようとする一瞬前に、スパーン!と小気味のいい音が聞こえ、チュウの身体が些か大げさすぎるリアクションで前につんのめった。 「痛ぇっ!何すんのハルちゃん!!暴力反対よっ!!」 「てめぇの頭ん中はそれっきゃねえのかよ!合コンなんて行かねえぞ。ケイちゃんを引っ張り出すことは、この俺が許しませ〜ん」 「ひっど〜〜い!あなた、またケイちゃんを1人占めするつもりね!」 「ブァ〜ッカ!気色悪ぃんだよ、クネクネすんな!ケイちゃん、食券まだだろ?買いに行こうぜ」 わざとらしくシナを作り、目に見えないハンカチを噛み締め引っ張って見せるという、そんな古典的な反撃に出たチュウの頭をもう1度スパーンと叩き、ニカッといつもの笑みを向けてきた晴彦が促すようにして、まだ座ったままの圭一の腕を引き上げてきた。 「え…でも……」 「い〜のい〜の。おバカさんの相手なんて、する事ないからね〜」 「いや〜ん!ハルちゃん、ケイちゃん、待って〜〜〜」 圭一に向けた言葉と言うよりは、まだふざけているチュウに向けた言葉。そんな晴彦の声に反応したチュウが、さっきよりも増してシナを作りながら食券売り場へと向かった2人を追いかけてくる。その後ろからは、取り残されて慌てて追いかけてくる笹原と駒井の姿。 こんな冗談ばかりの会話が、今の圭一にとっては何よりも楽しかった。これまでの学校生活の中で、圭一が経験してこなかった雰囲気が、今のこの空間にはある。 そして、その空間の中心には、いつだって晴彦の存在がある。 「ん?どうした?」 食券機に向かう中、並んで歩く晴彦の、自分よりも少しだけ高い位置にある顔をそっと盗み見る。と、その視線に気付いた晴彦が、ニカッといつも人好きのする笑顔を浮かべながら問いかけてくる。 それに「なんでもない」と小さく返しながら、やっぱり小さく首を振る圭一を、変わらず笑顔のままで見つめてくれる瞳。そんな2人の背後から、抱きつくようにして肩に腕を乗せてくるチュウ。それを呆れながらも、ゲラゲラと笑いながら付いてくる笹原と駒井。 そんな、今や日常の1コマと化した空間の存在が、今の圭一にとっては何よりも幸せで、何よりも大切な時間だった。 <<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m TRACKBACK
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ケイちゃん、ハルさんの行動に右往左往させられてますねw
ケイちゃんは勘違いはしちゃ駄目だと心に命じて
ますが、もう好きになっちゃってますよね〜vv
晴彦も本能で動いているし…w
でも、例の件がどう組み込まれてくるか楽しみでもあり
ちょっと不安でもあります(勝手に善からぬ先を想像する私汗)
でも、このお話も深いですので、やはり山あり谷ありは
当然ですよね。
そしてそして、あらたー!!
もう、どこまでキチックーなのあなたはw
新の気持ちもわかるけど、どうしてこの人は
こんなにぶっきら棒なのでしょう(笑)
でも光流くんはちゃんと分かってるんだろうなw
お忙しいでしょうが、マイペースに頑張ってくださいませね。