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別に、圭一が特別おかしな事を言ったわけではなかった。実際、その場にいた友人達だって、その言葉の意味を深読みする事などなかったのだが。ただ単純に、いつもは黙って事の運びを見守っている圭一の、珍しい発言に驚き静まり返っただけの反応に、1人圭一だけが妙な焦りを感じていた。
別に自分はおかしな事は言っていないはずだ。たったあれだけの言葉で、自分の性癖がバレてしまうなどと、そんな事はないはずだ。そう思いはするものの、思いがけず集めてしまった注目に、何故か一瞬静まり返ってしまったその場の空気に、いたたまれず俯いた圭一を救ってくれたのは、やはり晴彦の明るい声だった。 「まてまてまて〜っ!ケイちゃんの前でおかしな事を言うなっ!誤解だ!誤解だからな、ケイちゃん!」 「何が誤解だよ〜だいたい計画立てんのはこいつじゃんな?」 何故か慌てたように両手をバタバタと振る晴彦を見て、それこそ冗談じゃないと言い返すチュウの言葉に、笹野と駒井も申し合わせたように一斉に頷く。 「てめえら!揃いも揃って、俺の信用を地に落としたいのかっ!」 「ハルのどこに信用があるってんだよな〜?」 「そうそう、合コンに行きゃあ必ずお持ち帰りの常習犯がさ」 「い〜っつも、いつの間にやら上手いことやって、真っ先にトンズラしてるくせにな〜」 「まてまてまてっ!誰がお持ち帰りの常習犯だっ!!数えるほどしかしてねえぞ!」 「「「してんじゃねーか」」」 口を揃えたその攻撃に、キーッ!と叫びだしそうな晴彦の慌て方がおかしくて。「お持ち帰りの常習犯」だとか、「いつも率先して合コンを企画する」という言葉には多少傷つきはしたものの、それでも何故か圭一に対して言い訳じみた行動をとろうとする晴彦が嬉しくて。 そこに特別な意味など含まれていなくとも、それでも自分の悪行(というには、些か大げさすぎる気はするが)の言い訳をしようとしてくれる晴彦の気持ちを、自分の中でだけ都合よく解釈してしまう自分自身がおかしくて。 「今は全然してねえからな!信じてくれよ〜ケイちゃ〜ん」 ちょっとふざけながら、まるで圭一を拝むようにして顔の前で両手を合わせてくる晴彦がおかしくて、ついついプッと吹き出せば、それだけで「よかった〜笑ってくれた〜」と、また勘違いしたくなるような笑顔を向けてくれる。 「そうなんだよ!そこなんだよ!」 「何がだよ!?もういいから、てめえは黙ってろチュウ!これ以上ケイちゃんにおかしな事吹き込んだら、許さねえからなっ!」 「最近マジで付き合い悪ぃのこいつ。ケイちゃんケイちゃんってさ、まるで彼女の話でもするみてえにさ」 「あ、おいっ!何言ってやがんだ、このチュウ太郎!」 「俺は心配してやってんだろ〜。最近、あんまりにもケイちゃんケイちゃんってさ、ハルがこのままホモの道にまっしぐら突っ込んでいっちまうんじゃねえかってよ〜」 サメザメと、わざとらしい涙声を作りながら、「わ〜ん」と大げさに目元を腕で拭い晴彦の肩に顔を押し付けるチュウの言葉に、ドキッとすると同時に冷や汗が背筋を伝う。 それは、きっと何気なく発された、日常の中での冗談にしかすぎない言葉のひとつで、恐らくはそれを本気で受け止めるものなど、この中には1人としていないだろう。ただ1人、圭一だけを除けば。 「おまえ……本気で頭いかれちまったんじゃねえのか!?なんだよ、そのホモの道って!」 「だ〜ってよ〜青春真っ盛り、やりたい盛りの男がよ?新しい友達できたからって、それまでノリノリだった合コンに、全く顔出さなくなるってどうなの?俺は心配で心配で。だからさ、そんな友達思いの俺に心配かけない為にも、また一緒に盛り上がろうぜ」 そんな圭一の焦りなど当然知らない2人は、まだそんな事を言い合っては、どこかでそのやり取りを楽しんでいる。 最後には、音符だかハートマークだかでも付いているのではないかと突っ込みたくなるくらい、それまでわざとらしく嘆いていた声とは打って変わって、呆れるくらい明るい声で言い放ったチュウの顔面を、大きな手で覆い隠した晴彦がそのままグイ〜ッと引き剥がしにかかった。 「結局そこかよ……おまえの魂胆は見え見えなんだよ。人を餌にしてんじゃねえぞ」 「あ、バレた?」 「わからいでか」 「仕方ねえじゃん。実際おまえが参加するとしないとじゃ、女の子の集まりも質も変わってくんだから」 「人を客寄せパンダみたいに言うんじゃねえ」 「これ以上ないくらいの事実だ。俺たちモテナイくんに愛の手を!見放すって手はないだろ〜」 悲しいかな、チュウの言っている事は決して大げさなどではなく、その場の誰もが思わず頷いてしまう現実だった。 目立った美形というわけではないが、明るく人好きのされる晴彦の性格は、それだけで女の子達の人気を集め、そこそこに人を惹き付けるある程度男らしいそのルックスを、少なからず引き立てる役割を果たしている。 特上とまではいかないまでも、上レベルには女子に人気のある晴彦の存在は、合コンを行い女の子を集める意味では、欠かせない存在ではあった。 もちろん、今ここに集まっている友人達の中にも、際立って見るに耐えないルックスをしているものは見受けられないし、中でも晴彦と一番よく似た雰囲気を持つチュウなどは、合コンに行っても女の子が好んで集まる男の1人である事に違いはなかった。 ただそれも、会話を交わして初めて、その人柄に引き寄せられるといった類のもので、目が細く少々前歯が出っ張り気味のチュウは、別にその容姿であだ名が付けられたわけでもないのに、そうと勘違いされそうになる程度に、ほんの僅かねずみ顔だったりするのだ。 もちろん、人を見た目で判断するべきではないと、本人も力説する通りそれが全てではない事は女の子達だってわかっているだろう……わかってくれていると信じたい。 しかし、やはり悲しいかな、まず合コンを開催しようと企画を立てる上で、女の子の集客の為に一番使えるのは晴彦であるという事実は否定できなかった。 「知るか!もう俺を当てにするのは止めるんだな友よ」 「「「はい〜!?」」」 「俺は今、ケイちゃんと一緒にいるのが一番楽しいし、癒されるの」 「に…西宮く…!?」 「誰も邪魔しないでくれる?」 チッチッチ…と、立てた人差し指を気障ったらしく胸の前で振り、そう言ったかと思うとおもむろに隣に座る圭一の肩を引き寄せる。 それに慌てた圭一が、慌てて離れようとしたその行動を阻止するかのように、細い肩を引き寄せた晴彦の手に一瞬強い力が込められた。 「出たっ!」 「マジで〜……ケイちゃん、こいつとの付き合い考えたほうがいいかもよ?ケイちゃんまでおかしな道に引き摺り込まれちゃうかも〜」 「目を覚ませ!目を覚ますんだハルッ!!」 「うるせぇっての!俺は至って大真面目だ!」 変わらず繰り返される、冗談としか思えない掛け合い。当然だ。これが冗談でなくて、一体なんだと言うのか。 それでも、そうとわかっていても、圭一にとっては少々辛すぎる冗談の数々だった。 彼らが笑顔で紡ぎだす言葉の一つ一つが、胸の奥深くに封じ込めているはずの傷を、少しずつ抉り出す。こうしてふざけ合う中で切り出される話題が、彼らにとって、何よりも晴彦にとって、同性に対して恋愛感情を抱く事があり得ないことなのだという事を知らしめてくる。 わかっていた事とは言え、やはりほんの僅か胸が痛む──…。 <<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m COMMENT
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