駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

inside monopoly act.2

カテゴリー : inside monopoly
結局、撮影を終えてスタジオを出たのは、もうそろそろ日付も変わろうかという時間になってからだった。
一応、休憩時間にあいつにメールを入れ、送信後すぐに『わかった。また仕事が終わったら連絡して。』と、それだけの返信がきたけど、それだってもうすでに5時間は経過してしまっている。

「今、車回してくるから」

そう言って駐車場へと向かったなるちゃんを見送り、どうしようかと迷いながら取り出した携帯電話。そこには、当然のようにあいつからの連絡は入ってなくて。それにほんの少しだけ落胆している自分に自嘲が漏れる。
もう日付が変わろうかというこの時間、もしかしたら寝てしまっているかもしれないと思いながらも、仕事が終わったら連絡をしろと言ったのはあいつの方だと、そんな言い訳じみたことを考えながらコールを鳴らした。

『もしもし?お疲れ、仕事終わったのか?』

これで、もし応答がなければ、今夜は寄らずに大人しく自分の部屋に帰ろうかと、珍しく殊勝な事を考えた俺だが、そんな気遣いは無用だったようだ。
電話をかけてすぐ、1回目のコール音が鳴り終わらないうちに聞こえてきたあいつの声に、俺からの連絡を携帯を握り締めながら待ってたのか?なんて、そんな意地の悪い質問をぶつけたくなってしまう。

『新?』

その反応の早さに、思わず心の中で吹き出してしまっていた俺は、聞こえてきたあいつの声に答える事をすっかり忘れてしまっていて。俺からの反応がない事に不安を覚えたのか、おそるおそる名前を呼んでくる声に、とうとう堪えきれず吹き出してしまっていた。

『返事くらいしろよ…』
「なんだよ、待ちきれなかったのか?」
『バッ…カ!そんなんじゃねえよ!』

ニヤリと含み笑いを浮かべながら問いかけた俺に、慌てたように反論してくるあいつがおかしくて。
そんなに焦った声で即答されたって、説得力も何もねえっての。そう思った言葉は、それでも口に出して言うことはしなかった。
あんまりからかい過ぎて、締め出しを食らうのだけはごめんだ。まあ、あいつが俺の事を締め出せるとは思えねえけどさ。

「こんな時間だし、今日はやめとくか」
『え?』
「おまえ、明日も仕事だろ。そろそろ寝るんじゃねえの?」

本当はそんな事考えていないくせに。まるであいつの反応を試すかのようにして言い募る言葉。

『俺は…っ!あ……でも、新が疲れてるなら…うん……』

明らかな落胆を、その声に滲ませているくせに。わかっていたこととは言え、俺からしかけたこととは言え、やはり自分からは望もうとしないこいつに腹が立つ。

「ふ〜ん…別に俺は疲れちゃいねえけど、おまえがそう言うんならやめとくわ。じゃあな」
『あ…っらた!』
「なんだよ」

わざと突き放した口調で言い放ち、すぐにでも電話を切ろうとする雰囲気を匂わせれば、そうなってからようやく、それでもどこか遠慮がちに俺の名前を呼んだあいつの声が聞こえてきて。
遅ぇんだよ!と心の中で愚痴りながらも、殊更何でもない事のように聞き返す。

『来てすぐに寝ていいから……だから……』
「あ〜?はっきり喋れっての。何言ってっか聞こえねえって」
『俺まだ寝ないから……あ、でも、新が疲れてるなら、うちに来てすぐに寝ていいから……』
「だから?」
『来るって言うから、待ってたんだ』
「ふ〜ん」

ようやくその口からでた言葉の羅列に、それでも肝心の一言がまだ出てきてないと、わざと突き放した返事をする。これだけでも、十分すぎるほどにあいつの気持ちは伝わってくるけど、俺が望んでいるのはこんな事じゃない。
いつまでも遠慮がちに、自分の本心を言おうとしないこいつの、上辺だけの言葉や態度じゃないんだ。
こいつの気持ちは伝わってくると言いながら、それでもなりふり構わずに俺の事を求めろだなんて、結局は俺の傲慢に過ぎないのかもしれない。それでも、どうしてもこいつに言わせたかったんだ。

俺の口調にしり込みをしたのか、それ以上の言葉を続けようとしないこいつからは、結局沈黙しか返ってこなくて。
こんな風にして試すような事をしても仕方がないと、それをわかっていながらも割り切れない気持ちが、忘れかけていたどす黒い感情を呼び起こす。
これ以上こいつと話していたら、また自分がひどい言葉をぶつけてしまいそうで。そんな時に決まって脳裏を掠める、こいつの辛そうな泣き顔が俺の思考を麻痺させる。

「じゃあな、切るぞ」
『もう…2週間も会ってない……少しでもいいから会いたいんだ…』

結局、そこにある沈黙に耐えられなくなるのは俺だった。
痺れを切らしたかのように、吐き捨てるように言い募った時、ようやく聞こえてきた小さな声に、それだけで胸に渦巻きだしていたどす黒い塊が、なりを潜め始めた。
我ながら、つくづくおめでたい奴だと思う。こうして、半ば脅すようにして引き出した言葉。それは決して、こいつ自らが進んで口にした言葉ではないのに、それはわかっているのに……。
それでも、たったそれだけで、少なくともこの場の俺の気持ちは治まりを見せ始める。

「最初から、素直にそう言やいいんだ」
『うん…ごめん……』
「今からスタジオ出るから、20分くらいでそっち着く」
『わかった』

ようやくホッとしたかのように、微かにため息を漏らしたこいつの吐息が耳に届き。それに満足しながらも、いまだ胸の奥に燻り続けている不満が解消されたわけではない事には気付いていた。

「新くん、お待たせ」

電話を切り、正面玄関へと出た時、丁度目の前に滑り込んできた車の助手席側の窓が開き、ひょいと顔を覗かせたなるちゃんが後部座席を指し示しながら声をかけてくる。
それに笑って頷きながら、後部座席へと身体を滑り込ませた俺は、そのままシートに凭れるようにしてそっと瞳を閉じた。

「大丈夫?」
「ああ、うん」
「光流くんとこ、行ってもいいのかな?」
「うん、頼むね」
「了解」

たったそれだけのやり取りの中で、俺が疲れていると思い気を利かせてくれたのだろう。それっきり口を閉ざしたなるちゃんが話しかけてくることはなく。
暗く狭い車内には、窓から差し込むネオンの光だけが僅かに届き、カーラジオから流れる深夜放送の音楽だけが静かに響いていた。

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