駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

eternal lover act.5

カテゴリー : eternal lover
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『あんた以外に、誰がいるってのよ』
『そうだよね。ごめん…』

初めて交わしたのは、そんな会話だった。それまでだって、晴彦の存在は知っていた。
いつだって周りを人に囲まれていて、いつだって教室の中心で友達と楽しそうに話していた。だけど、なるべく目立たないようにして、いつも教室の隅の方にいた圭一の存在など、当然晴彦が知るはずもなく。
あの日だって、偶然遅れて教室に入ってきた晴彦が、気付いたら席を2つ分離した場所に座り。いきなり大欠伸をしたかと思うと、教材を取り出すことなく机に突っ伏しようとしたから、いろんな意味で驚いて、気付いたときにはマジマジと見つめてしまっていたのだ。

『あんた』と、そう呼ばれた事に、やはり自分の事など知らなかったのだと、何故かわからないがひどく落胆し、同時にかけられた声がひどく嬉しいと思ってしまっている自分には気付いていた。
程よく日に焼けた肌は、焼けてもすぐに真っ赤になってしまう白すぎる圭一の肌とは正反対で。ニカッと笑った笑顔がやけに輝いて見えて。いつだって輪の中心にいる晴彦が、いつだってほんの少し眩しく見えていたのだと、その時改めて気付かされたのだ。
もちろんそれは、そんな晴彦の環境を羨ましいと思う気持ちからくるものではなく、昔から同性相手に、普通の男なら抱かないはずの感情を抱いてしまう、己の性癖からくる感情だということはわかっていた。
だからこそ、ただ純粋に話しかけてくれる彼に対して、見抜かれたわけではないのに後ろめたい思いを感じてしまい。同時に真っ直ぐに視線を向けられている事が恥ずかしくて、同じようにして真っ直ぐに見返す事ができなかった。

ほんの僅かな会話を交わしただけで、結局その後2人の間に会話が続くことなどなく。それまで全く面識などなかったのだから、それも当然の事なのだが。
しばらくは、居心地が悪く感じられる程に、何故か自分へと向けられる晴彦の視線に戸惑ったが、それも程なくしてその視線を感じる事がなくなり。そっと伺い見た2つ分の席を空けた隣に座る晴彦は、教室に入ってきた時にとろうとした行動を実行に移したらしく、鞄を枕にすっかり寝の体勢へと移っていた。
突っ伏した腕と額にかかる前髪の隙間から見え隠れする横顔は、一般的な視点から見て嫌味なく整った端整な顔立ちをしていて。誰もが騒ぐような目立った男前というわけではなかったが、それでもそこそこに騒がれる部類には属していた。
いわゆる、高嶺の花的な近寄りがたさはなく、大衆受けしそうなその顔の造りも雰囲気も、見つめれば見つめる程に圭一の心を本人も自覚のないところで惹きつけていく。
でもそれは、元々同性を相手に恋愛の感情を抱く圭一にとっては、ごく自然な出来事で。だからといって、それがそのまま恋へと結びつくわけではなかった。単純に、誰もが異性に対してトキメキを感じるという感情を、圭一の持つ性癖に見合った相手に抱いただけのこと。

当時の圭一が晴彦に抱いていた感情は、恋愛などというはっきりとしたものではなく。単純に人好きのする笑顔に好感を持っていたと、ただそれだけのものだった。
当然、そんな想いを抱いたところで、そうそう同性相手に抱いた恋愛感情が成就する事などないことを理解していた圭一にとっては、どこかでそうなる気持ちの変化に歯止めをかけようという思いが働いていたのかもしれないが。
自分がそういう性癖を持っているからといって、他の男がそうであるとは限らない。むしろ、そうである可能性が低い事だって、十分すぎるほどにわかっていた。
だから、晴彦に対してだって、特にそれを期待したわけではないのに、それでもその直後に確認させられた彼が間違いなくノンケだという事実に、少なからずショックと落胆の感情を抱いた自分自身に戸惑ったのだ。

時折そんな寝顔をちらちらと盗み見ながら過ごした1時間半の講義が終わり、次の教室に移動すべく机に広げた教材を片付け始めた時、いつも晴彦と行動を共にしている友人達がこぞって集まりだした。

「お〜っすハル!」
「なんだよ〜昨日と全く同じ服じゃねえか。やる気満々をここで披露すんなっての」
「バァ〜カ!そんなんじゃねえよ!」
「で?で?どうだったのよ?」
「美人だったもんな〜畜生!羨ましいぜ!」
「残念でした〜彼女、彼氏持ちだってよ」
「マジでか!?そんな事聞いてなかったぞ〜」
「え?え?でも食っちゃったの?」
「食ったとか、人聞きの悪い言い方すんなよ」

友人達にからかわれ、それでも満更でもない様子で返す晴彦の、さっきまでちらちらと盗み見ていた横顔を思わず凝視する。
彼がノンケであるという事実には、それこそ大して驚きはしない。それが普通である事は、今更誰に諭される必要もなくわかっている事だ。
ただ、今まで遠巻きに見ていた彼の印象と、さっきほんの少し会話を交わした時に得た印象。そのどちらもが、圭一にとってはやはり好感の持てるものだったから、今の彼らの会話に少なからずのショックを受けた事は確かだった。
彼氏のいる女性と関係を持ち、その時は知らなかったのかもしれないが、その事実を知った後でも悪びれた様子などなく話しをする。自分が潔癖だなどと、そんないい子ぶるつもりもないが、それでもその事に僅かながらも不快感を抱いた事は確かだった。
たいして好きでもない相手とでも、寝ることができるのかと、考えてみれば圭一が怒るようなところではないはずなのに。今自分自身がおかれている状況だって、決して褒められた場所にはない事も十分に理解しながらも、それでもどうしようもなく胸に湧き上がってきた不信感。

「で?で?どうだったのよ、お味は?」
「下世話な聞き方すんじゃねえよ。お味もクソも、ほとんど覚えちゃいねえっての」
「相当イッてたからな〜おまえ」
「でもおまえ、男としてそれはどうなの?あれだけの美人に相手してもらって、記憶飛ばすってどうなのよ?」
「情けね〜男の風上にもおけね〜」
「うるせえな!覚えてねえもんは仕方ねえだろ……っ!?」

ガタン───…ッ!!

何故かわからないがムカムカして、これ以上その会話を聞いていたくなくて、教材を突っ込んだ鞄を肩に引っ掛けながら、気付いた時には大きな音を立てて椅子から立ち上がっていた。
そのまま教室を出ようと振り返った時、圭一の立てた音に驚いたのか、晴彦を初めとするそこに集まっていた学生達が驚いた表情で圭一へと視線を向けてきた。

「あ……ごめん…」

何故自分が謝らなければならないのかと、そんな理不尽とも取れる怒りを覚えながら、それでも注目を浴びてしまったという状況が無性に気まずくて。ボソッと小さく謝罪の言葉を呟き、彼らの方へと視線を流さないまま圭一は教室を後にした。
何故あそこまで腹が立ったのか、それが自分でもわからずに、その時の圭一の心は激しく動揺していた。
それまで、一度として会話を交わした事などなく、それでも初めて自分の存在を知った様子の彼に対して、ほんの僅かとは言え改めて好感を持てたのは本当だった。だからと言って、あの会話に対して自分が不機嫌にならなければならない理由など一つもないはずだ。
だからこそ戸惑っていた。

「なんだよ……いい加減なヤツ」
「お〜い!おいってば!」

それでも胸に湧き上がってくるムカムカを抑えきれず、次の教室へと移動する中愚痴めいた台詞を零したとき、不意に背後から掛けられた声。
それが自分に向けられたものとは思わずに、当然足を止める必要性など微塵も感じていなかった圭一の腕が、次の瞬間ぐいっと後ろに引っ張られた。

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