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「女を抱いた数と、ときめきが比例するわけじゃない事くらい、あんたもわかってんでしょ。どれだけの女をこの腕で抱いてきたのかなんて知らないし、そんなの聞きたくもないけどさ……あんたが本気で人を愛した事がないんだって、それは俺が保証してあげる」
何故?俺ではない赤の他人の彼が、そんな事を保証できるんだ? あまりにもはっきりと言い切られたその言葉に、やはり失礼な奴だと思うのに、不思議なくらい不快感など感じられなくて。 「だってさ、あんた今すっげえドキドキしてんの…自分でわかってる?」 「何…を…」 「俺とこうして触れ合って、ありえないくらい心臓ドキドキしてんじゃん」 それはさすがに気付いていた。 彼の体温が触れたその場所から、徐々に全身が心臓になってしまったのではないかという錯覚を起こしそうなくらい、己の胸がたてる鼓動の存在が耳に煩くて仕方がないんだ。 これが、誰かを愛しいと…そう想う感情だというのか──…? この世に生を受けて33年。こんなにも苦しいくらい、胸を締め付けられる感情に全てを支配されるのは初めてだ。 こんな感覚、俺は知らない。 「まだわかんない?」 「………」 「だったら、教えてあげる。キス…してよ」 「え……?」 「キス。やり方がわかんないなんて言わないだろ?俺にキスしてみて。そしたらきっと、ここにある感情の意味がわかるから」 首筋へと回されていた手が不意に解かれ、そのまま細い指先がなぞるように俺の胸元へと這わされる。 そんな一見なんでもないはずの指の動きが、これまたおかしいくらいに俺の中の何かを掻きたて、それが心の奥深くに潜む欲望なのだと気付いた時、自然に呪文のような言葉を繰り返す唇を求めていた。 「……っん…」 そっとそっと触れた唇は、甘い花の香りに包まれるような、そんな脳髄から溶かしだされるような錯覚を呼び覚まし。 触れるだけでは足りない。もっと──…彼の奥まで侵し貪りつくしたいと。 少しずつ牙を向き始めた雄の本能が、耳元を掠める喘ぎににも似た吐息に触れ、完全に行き場を見失ってしまっていた。 「…っふ…ぁ…」 口付けの合間に漏れ出す吐息でさえも、一滴だって取り零したくなくて。 こんなにもキスだけで興奮した事など、かつてあっただろうか。 こんなにも、何もかもを飲み込むほどの激情に突き上げられる口付けを、これまでに交わした事があっただろうか。 どれほどの時間そうしていたのだろう。 お互いの唾液が混ざり合い、喉を鳴らし溜飲できない液体が彼の白く細い喉元を濡らし、微かな力で胸元を押し戻される感覚に、ようやく我に返った俺は貪り続けた彼の唇を解放した。 「信じ…らんな…っ…」 はぁはぁ…と乱れた吐息を紡ぎだす濡れた唇が、憎々しげに言葉を繋げ。 睨みつけてくる潤んだ瞳が、抑え切れない欲望の渦を巻き起こす。 「ちょ…ちょっ…!待てよ!」 再びその腰を抱き寄せ口付けようとした俺の唇を、甘い香りを纏った指先が塞ぎ。 「いきなりこんなキス…反則だ」 「きみがしろと言ったんだろう?」 「そう…だけどっ!誰もこんなドギツイのをしろとは言ってない!」 潤んだ瞳で睨まれても、その上気しきった表情では、余計に俺を煽るだけなのに。 そう──…俺は、こんなキスひとつで、間違いなく彼に対して欲望を感じていた。 「俺は…本気できみの事が好きなんだろうか」 「はぁぁあああ!?この期に及んで、まだそんな事言ってんの?いい加減ぶっ飛ばすよ!?」 それは勘弁して欲しいなと、苦笑を漏らした俺に、不意にぶつかるような不器用なキスを仕掛けてきて。 「いいよ、こうなったら意地でもはっきり自覚させてやるから」 俺の胸へと顔を埋めながら吐き出された、とても可愛いとは思えない台詞。 「あんたが、本当はどうしようもないくらい俺にメロメロなんだって、絶対に自覚させてやる」 「すごい自信だな…だいたい、さっきから俺の事をボロクソに言ってくれるが、きみはどうなんだ?きみは…俺の事が好きなのか?」 こんなキスを受け入れといて、今更好きではありませんなんて言われても納得できるはずがないし、何よりもそんな事実は受け入れたくはないぞ? 「言わない」 「言わないって…」 「あんたが俺の事好きだって、ちゃんとそれを自覚して、ちゃんとした告白をしてくるまでは、絶対に言わない」 そんな捻くれた台詞を吐きながらも、ぎゅっとしがみ付いてくる腕の力は、まるで俺の事を好きなのだと言ってくれているように思えて。 それにまた広がる温もりに、思わず緩んでしまう頬を引き締める事が叶わないまま、与えられた温もりごと全部、そっとそっと包み込むように抱き締めた。 「きみが自覚させてくれるんだろう?」 「甘えるなよ!自分で努力しろってんだ!」 「だったら…もう1度キスしてもいいかな?」 「……っな!!冗談じゃない!あんなキス何度もされたら、こっちの身がもたないよ!」 「それは…気持ちいいと思ってもらえたって事かな?」 クスクスと笑みを零す俺に、ますます顔を真っ赤に染めた彼が、ドンドンと回した拳で背中を何度も叩きつけてきて。 そんな行動ひとつを、可愛くて仕方がないと思ってしまっている自分に気付いた。 「俺に早く自覚させたいんだろう?どうやら俺は、いくら頭で考えてもなかなかわからない…身体で確かめるタイプのようだ。だから、許しを得られると嬉しいんだが」 「自覚させたいって…それじゃあ、俺の方があんたに惚れてるみたいじゃんか」 「違うのか?」 「───…っ!!!最っ低!あんたみたいのを、無駄に経験だけ重ねてきた大人子供って言うんだ!」 「初めて聞く言葉だな。覚えておくよ」 フッと笑みを漏らし、囁きながら仕掛けるキス。 あれだけ文句を並べながらも、重ね合わせた唇に抵抗など少しも感じられなくて。 それでも、ここで足腰立たなくしてしまい、この後の仕事に差し支えるようでは、後でまた何を言われるかわかったものではない。 角度を変えながら、触れ合うだけのキスを何度も繰り返し、そうして解放したその瞳に浮かべられた、明らかな不満の色に思わず小さく吹き出した。 「何笑ってんのさ」 「いや…満足させられなかったみたいだなと思って」 「誰もそんな事…っ!」 「そんな顔をさせたままでは申し訳ないからね」 こんな俺の台詞に、文句を並べようとしたのか、僅かに開かれたその唇が何か音を紡ぎだすより少し早く、そっとそっと塞いだその場所は、やはり甘い香りに満たされていて。 飽きることなく口付けを繰り返す。そんな慣れたはずの行為で、あり得ないくらいに高鳴るこの胸は、どうやら完全に彼に囚われてしまったらしい。 <<fin.>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m これより下は、あとがきコメントになっております。↓
<<comment>>
最後までのお付き合い、ありがとうございました。 こちらは、先日Masquerade様にて、企画参加させていただきました『仮面舞踏会』にて掲載させていただいた小説になります。 お題を頂戴し、そのお題にのっとって書き上げていくという、私自身にとってはなかなかに難しい企画でしたが、日頃好き勝手に書き綴っておりますので、いい刺激になったというか…貴重な経験と勉強をさせていただきました。 さて…この小説についての無駄話を少々。。。 浅葉は、もっとスマートでカッコいいダンディな設定でした。陽生は、もっと素直で可愛い設定でした。 なのに、書き進めていけばいくほどに、当初の設定はどこへやら。 だいたいのストーリー設定は変わらなかったものの、蓋を開ければキャラの1人歩きにて、流れというものが、大いに変えられてしまったという。 キャラに振り回されない事!これも今後のひとつの課題でございますなあ…。 ほんの6話の短編小説でしたが、お読みいただけた皆様に、少しでも楽しんでいただけましたなら幸いでございます。 ご拝読、本当にありがとうございました。 TRACKBACK
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凄い面白くて一揆に読んじゃいました。
又他のお話しも読ませてもらいたいのでお邪魔させて頂きます!