どこか遠くの方で、扉の開閉される音を聞いた気がしたけど。
それこそ明け方まで飲んで、風呂も入らないままに、小峯と2人狭いシングルベッドに潜り込んだ俺は、カーテンの隙間から漏れる陽の光にもめげず、不意に耳に届いたそんな呟きにすら堅く目を閉じたままだった。
「おい!光流!!」
「ぅ…っわ!?」
と、まだ浅い眠りを貪る俺の上から、勢いよく包まっていた布団が剥がされ。
その勢いに引きずられるようにして、完全に覚醒しない俺の意識ごと、ベッドの上から床へと転がり落ちる。
「さみぃだろうが〜…」
壁際に寝ていた小峯の、ぼんやりと寝ぼけた声が耳に届いたものの、状況を全く把握できずに床の上に転がっていた俺は、見上げたその先にあった姿に目を見開き、完全に固まってしまっていた。
「ありゃ…一ノ瀬 新」
「フルネームで呼び捨てんな、小峯!」
ぼんやりとベットの上に起き上がった小峯が、ボリボリと胸元を掻きながら、固まったままその名を呼べずにいた俺の代わりに声を発してくれて。
そう……明らかに不機嫌な顔で、不機嫌な声で、俺達から引き剥がした布団の端を握りそこに立っていたのは、3日前から新作映画のポスター撮りで海外に行っていて、明日帰国するはずの新だった。
「え?あれ…?おかえ…り…」
「おかえりじゃねえよ。おまえ、何やってんの?」
「ふぇ……?」
明らかな怒りの表情に、寝起きの頭ではその理由が理解できず。
みっともなく、床に仰向けに転がったまま、見下ろしてくるその姿を見つめる。
「何やってんだって聞いてんだよ!」
「あ…新……?」
キョトンとしたままの俺に苛立ったのか、寝転がったままの俺の腕を掴んだ新によって、ぐいっと引き上げられた俺の身体が、半ば強制的に立ち上がらされた。
「い…痛い…っ」
「俺が日本にいないのいい事に、男連れ込んでんじゃねえぞ」
「……え…?」
言ってる言葉の意味自体は理解できるけど、何でそれで怒られているのか。それがわからない俺を、イライラとした視線で睨みつけてくる。
その鋭い視線にビクッと身体が震え、理解できないその怒りに怯えを感じた時、張り詰めかけたその空気を一蹴してくれたのは、なんとも間抜けな小峯の大あくびだった。
「ふぁ〜……痴話ゲンカ?なら、俺風呂入ってこよ〜っと。光流、シャワー借りんぞ」
「こ…小峯…っ!?」
ベッドを降りて横をすり抜けていこうとした小峯に、思わず救いを求めるように視線を向ければ、ニッと口角を上げて笑った小峯が、新に腕を掴まれたままの俺の頭を、わしゃわしゃと撫でてきて。
「だぁ〜いじょうぶだって。ゆ〜っくり入ってくっからよ」
そして、俺にそんな台詞を向けながらも、新へと流したその視線が、どこかからかうように挑発的に感じたのは俺だけ!?……じゃないぞ〜〜!
その視線を正面から受けた新のこめかみに、綺麗な青筋が立ち、今にも爆発しそうにピクピク震えてるっ!!
浴室の向こうに消えていく小峯の背中を睨みつけていた新が、パタンとその扉が閉まる音と共に、怯えて縮こまってしまっている俺へと鋭い視線を落としてきて。
「いい度胸してんじゃねえか」
ボソッと吐き出されたその声は、背筋にゾクリと冷たいものが伝い落ちてしまうほどに怖かった……。
けど!男連れ込むってなんだよ!?
相手は小峯だぞ!!ってか、その前に、俺は別に男が好きなわけじゃない!!
それなのに、男を連れ込んだって責められる、その意味がさっぱりわかんねぇ───っ!!
「──…っぅ…むんんっ!?」
そんな反論の言葉を発しようとした唇が、その隙を与えられず激しく塞がれて。
押し戻そうとして、その逞しい胸板に当てた手から、深く貪られる行為のせいで徐々に力が抜けていく。
「あ…あら…っんんん──!!」
何とか顔を背けて、抗議の声を発するものの、すぐにその全てが飲み込まれてしまう乱暴な口付け。
完全に力が抜けてしまい、ふにゃふにゃと凭れ掛かった俺の身体が、いとも容易くベッドの上に投げ出されてしまった。
「ちょ…っ!冗談だろ!?」
そして、圧し掛かってきた身体に、慌てて逃げ出そうとする腰をがっちりと掴まれ、恐る恐る見上げたその表情は、怖いくらいに真剣な色を映し出していた。
「あ…らた…くぅ〜ん…?」
「ふざけんなよ」
「だからっ!!何をだよ!!」
「電話しても出ねえから来てみれば……何で、あいつと仲良くベッドで寝てんだよ。しかも、酒臭ぇし」
「仲良くって……なんだよそれ!」
「煩い……」
さっきのキスで、悔しいけど完全に腰が砕けてしまった俺は、右手で腰を押さえつけられ、左手で両手を1つに纏め上げられ、情けない事に見事に抵抗しきれずにいた。
そして、耳元で低く囁かれた言葉に、理不尽だ!と怒りの感情すら沸いてくるのに、触れる吐息の熱さに、完全に砕けた腰からますます力を奪われてしまっていたんだ。
理不尽な怒りをぶつけられてるって思うのに、シャワーに行ったとは言え、小峯だってまだいるってのに、たった3日触れ合わなかっただけのこいつの温もりが、情けないくらいに嬉しくて。
たった3日会わなかっただけなのに、もうこいつの温もりが恋しくて。
「や…っ!ちょ……何して…っあ…!」
そして、乱暴な仕草で首筋に顔を埋めてきたこいつの、這わされる舌の感触に、ゾワゾワと肌が粟立つ。
あまりに頼りなさすぎる俺の抵抗なんてものともせずに、昨日から着替えていなかったカッターシャツのボタンを外したこいつの手が、するすると胸元へと這わされた。
「や…っんん!俺……風呂入ってな…っぁあ…」
って、違うから!そこ、突っ込むとこじゃないから俺っ!!
小峯がいるんだっての!こんな……中途半端に煽られたら、辛くなっちまうだろうが!!
心の中ではそんな悪態をつきながらも、結局はどれひとつとして、まともに声に出して言う事ができず。
胸元を這い回り、小さな飾りを捻るように摘み上げられ、ビクンと反応を示してしまう己の身体が恨めしくて。こんな状況だってのに、いちいち反応してしまう自分が情けなくて。
お願い!!誰か助けて!!
俺1人じゃ、この状況を打開できない──っ!!
神様、仏様……小峯〜〜っ!早く出てきてくれ〜〜っ!!
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