駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

きみがくれた空の色 act.3

カテゴリー : きみがくれた空の色
あの日から、毎日のように彼とあの公園で会い、何故か昼食を共にしていた。
別に約束をしているわけではなかったのだが、俺も彼も同じ時間帯にあの場所にいて、1度会話をかわしてしまったせいか、顔を合わすと彼のほうから近づいてくるのだ。

あの翌日もまた調理パンを恵んでもらい、それからは俺も昼食を持参する事にした。
考えてもみろ、30も超えたいい大人が、15歳も年下の子供に恵んでもらうなど情けない事この上ないじゃないか。

「あんた結婚してなかったんだ。ごめんごめん、俺てっきり」
「俺はそんなに所帯染みてるだろうか?」

手にしたコンビニ弁当を突付きながら、少し落ち込んだ声で隣の彼に問いかければ、相変わらず調理パンを頬張る表情がおかしそうに揺れる。

「気にしてたんだ。違う違う、所帯染みてるとかじゃなくてさ、なんとなく年齢的にそうなのかなって思っただけだよ。俺さ人間観察が好きでさ、結構道ゆく人とかみて想像膨らませちゃうんだ。別に全然知らない人なんだけど、どんな生活してるのかな〜とか」

全く悪びれなくそう言い放つ彼は、とにかくいつも笑っていた。何がそんなに楽しいんだ?と、思わず聞きたくなるほどにキラキラと輝くその笑顔は、最近の自分とは全く縁遠い感覚で。

「それで…きみの想像の中の俺は、嫁から貰う小遣いが少ないが故に昼飯も買えない、くたびれたオヤジだったってわけだ」
「こだわるな〜」

少し拗ねた口調で言い募る俺に、遥かに年下であるはずの彼が、呆れたようなため息を漏らしながらポンポンと宥めるように肩を叩いてくる。

「大丈夫!浅葉さんはくたびれたオヤジになんて見えないって」
「きみが言ったんだろう?」
「いい大人が、いつまでもそんな事にこだわるなよなあ。浅葉さんってさ、パッと見た感じはできるオヤジって感じなのに、こうして話してみると結構可愛いよね」
「かわ……っ!?」

初対面でくたびれたオヤジ扱いしたくせに、今度はできる男…いや、できるオヤジ。挙句の果てには可愛いだと?
彼が俺を形容する言葉はどれも、これまでに1度として言われた事がない言葉ばかりで。
正直な気持ちを言えば、面白いはずなどあるわけがないのに。何故かこの笑顔を前にすると、いつも何ひとつとして文句を言えなくなってしまう。

これまでの自分を振り返ってみれば、そんな暴言ともとれる言葉を吐き出した奴など、当然のように遠ざけ、間違っても自分から近づくような真似などした事がなかったのに。
何故か彼を相手にすると、そんな事はどうでもよくなってしまう。
彼のキラキラとした笑顔を前にすると、失礼極まりないはずのその言葉でさえも、不思議なくらい温かく胸に染み渡り、これまで誰に対しても抱いた事がないような…自分でも掴みきれない感情が湧き上がってくる。

「きみは…不思議な子だね」

気付けばそんな言葉が口をついて出てしまい。
キョトンとした表情で俺を映し出す、その真っ直ぐな瞳に、一瞬で惹き込まれそうになった。

「あ…いや、すまない。俺は何を言っているんだろうね」

誤魔化すように、慌てて彼から視線を逸らし、手元の弁当を突付き始めた俺の耳に、クスクスと小さな笑い声が届き。

「俺から見れば、浅葉さんの方がずっと不思議だけど?きっとエリートさんなんでしょ?なのに、よくこんなガキに毎日付き合ってくれてるよな〜ってね」
「エリート?俺が?」

確かに、一般的にみれば企業トップの血縁であり、それなりの役職に就いている俺のような人種をエリートと呼ぶのかもしれない。
しかし、これまではなんの違和感も疑問もなく受け入れてきたはずの言葉が、彼との時間を共有する中で耳にすると、どうしてこうも色褪せて聞こえるのだろう。

「俺は……今まで自分の置かれた環境に、疑問を抱いた事なんてなかったんだが。どうしてだろうな、きみに会ってこうして話をしていると、今まで自分がいた場所が何の意味もないものに思えてくるよ」

ポツリと漏らしたその言葉に、彼が怪訝そうな視線を向けてきて。
そりゃあそうか…俺自身、自分が何を言いたいのかわからないというのに、それを彼に理解しろという方が無理ってものだ。

「きみといるとね、不思議だけど…ここにただこうして座っているだけで、自分という存在を認めてもらえているような気になる」

これまで、目に見える結果だけを求められ続け、形のないものの価値などは無用のものだと教えられてきた。
何千、何万という社員を抱えた企業のトップに立つ祖父を持ち、経営のなんたるかを幼い頃から叩き込まれ、このままでいけば当然のように、将来的には兄と2人であの会社を背負って立たなければならない。

そのトップに君臨する事を、半ば強制的に義務付けられた兄に比べれば、俺の肩に乗せられる重圧などは、とるに足らないものなのかもしれないが、生憎と俺は人様のトップに立つような器ではなかった。
そんな事は、できすぎる兄の背中を見て育った、それこそ幼い頃から感じてきた事だ。
だからこそ、それなりの実績を残しながらも、社会的な己の立場の確立という重責から、のらりくらりと逃げ続けていたのかもしれない。

両親から口すっぱく言われ続けている、結婚の事にしたってそうだ。こんな自分が家庭を持って、果たして仕事と家庭の両立などという器用な事を果たせるのかどうか。
それら全てをうまくやりこしている兄が傍にいるからこそ、俺は自分に自信が持てずにこの年まできてしまったのかもしれない。

要するに、幼い頃からずっと変わらずに俺の中にあるのは、ずっと一番近くで見てきた、尊敬する兄への…尊敬するが故に抱くコンプレックス。
そんな自分を誤魔化すが為に、そんな自分を強く見せるが為に、仕事でそれなりの実績を上げてきたのだとか、女なんて簡単だなどと、そんな鼻持ちならない事を己に言い聞かせ、自分で自分を創り上げてきたのかもしれない。

こうして彼と話していて、花屋の仕事に誇りと自信を持ち、楽しそうに仕事の話をする彼の、自信に満ち溢れキラキラと輝くその表情を見ているだけで心が洗われる気になるのは、自分には持てないものの存在を、彼の中に確かに読み取る事ができるからだ。

目を背け続けながらも、俺が何よりも欲した、情熱と自信と……存在意義。

まだ18歳の少年であるはずの彼は、無駄に人生の時間を進めてきた俺なんかよりも、ずっとずっと己の道を迷うことなく見出しているではないか?

「これからも、こうして俺と会ってくれるだろうか?」

改めてこんな事を言うのも、何だか気恥ずかしいなとは思うものの、気付いたらそんな言葉を投げかけていて。
当然だが、驚きに目を見開いた彼の表情が、次の瞬間にはやはり俺には眩しすぎるくらいのキラキラとした笑顔を浮かべ。

「やっぱ浅葉さんって変わってるね」
「え?」
「だってさ、普通いい大人が、俺みたいなガキ相手にそんな事言わないでしょ」
「すまない…」
「やだな〜別に責めてるわけでもなんでもないんだから、謝ったりしないでよ」

クスクスと笑う彼からは、結局明確な答えは貰えなかったものの、拒絶の言葉を言われなかった事を勝手に了承の意と解釈し、その事に喜びを感じている自分がいた。

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