駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

片恋 act.21

カテゴリー : 片恋
胸ポケットの奥で、振動を繰り返す携帯電話。
今日だけで、何度あいつからの着信を告げただろう。
その度に、投げ出してしまいたい衝動に駆られ、それでもそれをできなかったのは、未練たらしくあいつからの連絡を待ってるからじゃない。
この携帯は、個人用であるとともに、仕事用だって兼用しているんだ。客との連絡手段を、ぶっ壊すわけにはいかないじゃないか。

そう何度も自分に言い聞かせながら、あいつからの連絡には耳を塞ぎ続ける。
昨日は何も言ってこなかったくせに。メールのひとつだって寄越さなかったくせに、どうして今日になって、こんなにしつこく鳴らしてくるんだ?

午後の30分の休憩時間、珍しく予定がなかった俺は、定刻通り休憩に入る事ができて。
休憩室で目にした、例の週刊誌。
見たかったわけじゃない。ただ、同じくして休憩室に入っていた女の子達の間では、その話題で持ちきりだったんだ。
知りたくなくたって、勝手に耳に入ってくる情報。

「深夜の密会お泊りデートだって〜」
「結婚秒読みって…もうあり得な〜い!」
「ついに年貢の納め時?でも、まだ2人とも若いよね?」
「できちゃったとか?」
「やだぁ〜〜っ!!」

そのどれもが、聞きたくないと叫ぶ俺の心を切り裂いていく。
週刊誌に書かれる事なんて、8割がたデタラメばっかりだと、いつかあいつが言っていた。

確かにその通りかもなって、今回はちょっと思ったよ。だって、あの日おまえは彼女のところに泊まってなんていない。それは俺が一番よく知ってる。
おまえはあの日、確かに彼女と一緒にいたけど、夜は俺のところにいたもんな。その腕に抱かれた事を、もちろん俺ははっきりと覚えてる。
そして、朝になっても、おまえは俺の隣にいたんだ……。

それでも、『結婚』だなんて2文字は、これまで出てきた事がなかったよ?
それも嘘?8割がたは嘘かもしれない週刊誌の、もしかしたら残り2割の真実が『結婚』なのかな?

知りたくなんてないのに、考えたくなんてないのに、耳に入ってくる情報が俺を打ちのめすんだ。
なあ新、おまえが今日しつこいくらいに連絡してくるのってさ、これのせい?
今度こそ、彼女との関係を守るために、俺に最後通告をしようとしてる?とち狂った俺が、いらぬ事を喋るんじゃないかって……おまえがそんな心配するわけないか。

いつだって、どんな時だって自信に満ち溢れているおまえが、俺との関係なんて気にも留めるはずもないか。
だったら、どうして連絡してくんの?これ以上俺を傷つけて、どうしたいっての?

もういいよ……もういいから……みっともなく追いすがったりしないから、だから俺を解放してよ。
もう苦しいんだ。おまえの事を考えるだけで、潰れそうになるこの胸が悲鳴を上げるんだ。

そして、ぼんやりとした思考の中で思い出すのは、あの夏の日──…。



約半年前、同じようにあいつの名前が週刊誌やらワイドショーを賑わした事があった。
その頃俺は、ちょうどフロント業務から営業へと転向になったばかりで。フロントよりも時間を拘束される、営業の仕事に慣れる事で必死だった。

毎日帰りが遅くなって、ただでさえ時間を合わす事が難しい新と、会える時間を確保する事もままならなくなっていた。
それでも、その時はまだ、俺はあいつへの気持ちを自覚できていなかったから。会えないからと言って、それを思い悩む事はなかったんだ。
ただ、ちょっと寂しいなあ…と思う程度で。

昔から、そんなに小マメに連絡を取り合う事はなかったし、もともと忙しい新と、職種の転向で忙しくなってしまった俺と。
とにかく落ち着くまでは仕方ないよな……と、思ってもその程度だったんだ。
でも、いくら学生時代のようには会えなくなったとは言え、俺が社会人になってからも、あいつが海外ロケなど特別な場合を除いては、必ず週1回のペースでうちに来ていたし、1月も会えないという状況は初めてだったんだ。

だから、ほんの少し寂しいと思ってしまうんだと、最初はそう思い込もうとしていた。
でも、それが思い込みだったのだと、それを思い知らされた。

あいつと会わない日が、もう1ヶ月を過ぎようとする頃。本当に暑い8月、真夏の真っ盛り、事件が起こった。
事件と言っても、ある意味ではまたか…と、すっかり慣れてしまっているはずだった新のスキャンダルで。
その時までは、あいつがどれだけスキャンダルを起こそうとも、「ま〜たやってるよ」くらいにしか思わなかったのに。俺とエッチして、他にも相手して…体力有り余ってんなあ、エロ大魔神!なんて、そんな悪態をつく余裕だってあったのに。

あの夏は違ったんだ──…。

その時、新の相手として取り上げられたのが、芸能界でもキャリアの長い大物女優で。
俺達よりも10歳は年上であるその人と、新の密会現場が週刊誌でスクープされたというものだった。
たまたまつけたテレビで流れてたワイドショー。その中で出された写真が、2人が寄り添ってる……と言うよりは、完全に抱き合っているもので。

それまでは、いくら写真を撮られても、せいぜい相手と腕を組んでいる程度のものだった。
初めて知り合った時から、女を切らした事がない奴だっていうのはわかっていたけど、ああやって誰かと抱き合ってる新を見るのは、たとえ写真だと言えども初めてだったんだ。

正直、ショックだった。
俺じゃない誰かと抱き合ってるあいつを見るのは、ショックだったんだ。
俺達の間に、恋愛感情なんて存在しない。それなのに俺は、視界に飛び込んできたその映像を、気付いたときには消してしまっていた。

ドクドクと脈打ち始める鼓動の意味がわからなくて、脳裏に焼きついて離れない場面を振り払いたくて。
急いで飛び込んだ洗面所で、何度も何度も顔を洗ったけど、そんなものでは当然消えてくれるはずもなくて。

どうして俺は、こんな今更な事実に動転しているんだろう?
あいつが、俺以外の誰かを抱き締める事なんて、わかっていた事じゃないか。
それに嫉妬の感情を抱くような、俺達の間にはそんな関係は存在しない。

嫉妬───…。
そう、俺はその渦巻き始めたどす黒い感情が、嫉妬なのだと、その時はまだわかっていなかった。
ただ痛くて。脳裏に焼きついて離れないその場面を、思うだけで胸が痛くて。
忘れようと、考えないようにしようと、そんな事を考えてしまう時点でおかしいのに。

そして、自覚できないままに……いや、今思うと、それが恋なのだと認めたくなかったのだと思う。
それを認めようとはしないままに、そのまま1週間の時間が流れて、その時には新も相手の女優も、きっぱりと関係を否定していたけど。俺にはそんな事はどうでもよかった。
ただ、気付きたくはない、でも気付いてしまいそうな自分の気持ちに焦ってた。

記事が出てから1週間後、何事もなかったかのように俺の部屋を訪れた新は、当然騒ぎについての言い訳なんて口にする事はなくて。
いつものように、「疲れた〜なんか食うもんねえの?」と、そんな事を言いながらソファに腰を下してた。
でも俺は、あいつの顔を見れなくて……傍に行く事もできなくて。
愚痴りながらも、楽しそうに当時の仕事の話をする新に、どこか上の空な返事を返しながら……それでも笑ってた。

あの時のあの瞬間までは、確かに俺達の間には会話が成立していたし、抱き合う関係を持ちながらも、学生時代と変わらない空気を保ち続けていられたと思う。

その日、久しぶりにあいつの腕に抱き締められて。
誤魔化し続けてきたはずの想いが爆発した。

他の女を抱く腕で、俺に触るな!
どうしておまえは、俺の事を抱くの?
俺は、どんなに望んでも、特別な存在にはなれないのに──…。

そして、俺が想いを自覚してしまったその瞬間から、俺達の関係は少しずつ壊れ始めてしまったんだ。

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