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<<新side>>
お昼過ぎに自宅に迎えに来てくれたなるちゃんが、楽しそうな表情で見せてくれた週刊誌の記事に、正直呆然としてしまった。 『新くんって、すっごく優しいんですよ。飲みすぎちゃってね、酔っ払っちゃったから自宅まで送ってくれたんです。』 『お泊りだなんて…やだぁ〜恥ずかしくて言えな〜い』 『でもね、新くんと結婚できたら幸せだなあとは思いますよ』 確かに、酔って少し足元がふらつく彼女を、自宅まで送って行ったのは事実だ。 週刊誌に掲載されていた写真は、彼女を支えるようにして、彼女の自宅マンションへと入っていく俺達の2ショットの写真だった。 しかし、これを撮ったカメラマンだって、張っていたというのなら、俺がその後すぐにマンションを出た事だってわかっているはずだ。 だいたい、こんな狙ったようなタイミングで……。 そこまでを考えて、俺はハッとした。 そういえば……2件目に入ったバーで、茜が誰かに電話をしていたか……まさかマスコミ関係者と繋がっていたとはな。 「俺をはめるなんて、あいついい根性してんじゃん」 「本当に、怖いもの知らずだよね。若いって勢いがあっていいな〜」 「でも、こんな記事出たら、あいつだって無傷じゃいらんないでしょ。よくまあ…こんなバカげた事」 テーブルに雑誌を放り投げ、ソファに身を沈めた俺を、再び雑誌を取り上げたなるちゃんが、やっぱりどこか楽しそうな表情で見つめてくる。 「彼女の場合、普段から『この世界でずっとやっていこうと思ってない』って言ってるからね。早く結婚して引退したいなんて、そんな事公言してる子だから、あんまり問題ないんじゃない?」 「で?俺がその結婚相手?冗談だろ」 「もちろん、勝手に突っ走っても、新くんが否定しちゃえばそれまでの話だって、彼女もそれくらいわかってるよ。でも、相手が一ノ瀬新だから話題にはなる。この記事読んでみてもわかるけど、とにかく彼女は新くんを一途に想ってる健気な子として取り上げられてるでしょ。プラスにはなっても、マイナスにはならないと思うなあ。むしろ、新くんの方が悪い男にさせられちゃいそう」 もちろん、そんな事はさせないけどね。と、そう言ったなるちゃんの表情は、いつもの穏やかなものだったけど、その口調は妙な自信で溢れていた。 「一ノ瀬新が、こんなちゃちな記事で潰れるとは思ってないし」 「自信満々だね」 「そりゃそうでしょ。8年もきみの事見てきたんだし、それくらいわかりますよ」 スキャンダルを引き起こす頭の痛い俺を、これまでにも守ってきたという強みだろうか。 こういうときのなるちゃんは、ちょっと驚くくらい頼りになる男だ。 「でもさ、新くんらしくないよね。どうしちゃったの?」 「何が?」 「だって、いつもはもっとうまくやるじゃない。茜ちゃんが好意持ってる事なんてわかってたでしょ?いつもの新くんなら、そんな子と2人で食事に行ったりしないだろうし、ましてや自宅に送って行くなんてねえ?とことんらしくないじゃん」 くすくすと笑いながら問いかけてくるなるちゃんに、最早苦笑でしか返せなかった。 確かに、これまで俺がマスコミにネタを提供してきたのは、ある意味それを隠れ蓑にしてやろうってな、自分で計画して行動を起こしてきた結果なのだが。 今回ばかりは、俺の計画なんて少しも入っちゃいなかった。ましてや、結婚なんて2文字が飛び出したのなんて、今回が初めてだ。 要するに、今回の一件は、完全に相手に嵌められたと…そういう事だ。 こんな簡単に想像できそうな事ですら、冷静に考えられなくなるほど、俺は追い詰められていたという事か。 あの数日前、いつものように光流をこの腕に抱き、あいつが見せた仕草に、それほどまでの焦りを感じていたという事か。 「まいったな……」 こんな記事は、どうとでもなる。問題はそこじゃないんだ。 あの日、いつものように腕の中で乱れる光流が、その唇にキスを望んでいた事が伝わってきた。それが、俺の中にあった焦りを膨らませたんだ。 今度こそ、本当にあいつを失うんじゃないかって、そんな怯えにも似た恐怖に支配され。 いつもなら絶対にとるはずがない行動をとってしまった。 「ちゃんと、光流くんにフォロー入れときなよ」 「え……?」 「結婚ってのはまずいでしょ?いくら寛大な光流くんでも、これは結構こたえるんじゃない?」 「なるちゃん…?」 これまで、どれだけ俺がスキャンダルを起こそうとも、なるちゃんがこうした事を言ってきた事はなかった。 それを、今回に限って言うって事は、それなりに追い詰められた俺の気持ちってのを、感じ取ってしまっているという事だろうか? そもそも、なるちゃんには、俺達の関係なんて言ってない。まあ、気付かれているかもしれないとは思ってはいたが。 「何びっくりしてるの?俺が気付いてないとでも思ってた?」 「やっぱりバレてたか」 「当たり前じゃない。何年新くんのマネージャーしてると思ってんの?」 「参りました」 わざとらしく頭を下げた俺に、くすくすと笑いながら隣に腰を降ろしたなるちゃんが、不意にポンポンと肩を叩いてきて。 「新くんがさ、ちゃんと考えた上での騒ぎだったら、そこまで問題ないと思うんだけどね。光流くんだってわかっての事なんだろうし。でもさ、例えでっちあげだとしても、『結婚』って2文字は結構デカイと思うよ?」 「そんなもん?」 「しらばっくれて。実際、新くん自身だって、多少の動揺は見せたじゃない」 なるちゃんの観察眼には、正直白旗を挙げるしかない。 でも、ひとつ違う事がある。なるちゃんは、光流もわかった上での事だって言ったけど、そうじゃない。 第一、フォローを入れるも何も、俺がどんなに週刊誌やワイドショーを賑わそうが、光流自身がそれに対して興味を示す事なんてなかったんだ。 あいつとの関係がバレる事はないと思ってはいても、それが100%の可能性と言い切れないのなら、決してあいつへとマスコミの目がいかないように、これまで俺が計画的にネタを提供し続けてきた行為だって、光流にしてみれば関係のない事で。 全ては、俺があいつという存在を手放したくないが為に、それだけの為に起こしてきた事なのだから。 「まあでも、しばらくは光流くんとの接触は避けた方がいいかもね。さすがに誰も想像なんてしないだろうけど、どこで目が光ってるかわからないし。電話だけでも入れてあげたら?」 そんななるちゃんの気遣いに頷きながら、ようやく手にした携帯電話。 少しの迷いの後で、それでもリダイヤル機能を使い引き出した、あいつの番号へとコールを鳴らし。 1回…2回…3回……。 ただ無機質な機械音だけが、虚しく鼓膜に響く。 「ああ…お昼休みも終わっちゃってるか…」 携帯を耳に当てたまま、一言の言葉も発さない俺に気付いたなるちゃんの、ポツリと呟かれた言葉で腕時計へと視線を向ければ、確かに午後1時半を指そうとしていた。 あいつの場合、特に営業へと転向になってからは、昼時関係なく客の下に出向く事も珍しくないらしく、電話をしたところでなかなか捕まらないという事だって、それこそ珍しくはなかったが。 それでも、あんな事の後なだけに気になって。 こんな事になるんだったら、焦らすだなどと子供じみた意地を張らず、すぐにでもあいつに会いに行けばよかったと…今になって後悔してみても遅い。 とにかく何でもいい。罵倒の言葉でも、最悪無言のままでもいい。 何でもいいから、受話器の向こうに、あいつの存在を感じたかったんだ。 そんな願い虚しく、無機質な機械音だけを響かせ続ける携帯電話が、やがて留守電転送のメッセージを伝え始め。 「そろそろ現場に向かわないと」と、少し言いにくそうに告げてきたなるちゃんの言葉に、仕方なく通話終了のボタンを押す。 そして、すぐに『また電話する』と、それだけを打ち込んだメッセージを送信した。 <<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m COMMENT
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