駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

片恋 act.8

カテゴリー : 片恋
「お〜い、光流〜!ひっかるちゃ〜ん!しっかりしろって〜」
「ん〜…」

あれから、自分がどんな顔をして宴会の席に座っていたのか。そしてどれほどの酒を口にしたのか、正直はっきりと覚えてはいなかった。
ただ、どうしたって楽しめない気持ちを誤魔化しながら、必死に笑顔を貼り付けていた事だけは覚えてる。進められるがままにアルコールを煽り、俺もまた調子よく皆のグラスに波々と酒をついで回り……そうして人に注いだ酒ですら奪って飲んでいたような……。

「ったく〜…飲みすぎだっての」
「へっへ〜♪いい気分だね〜小峯ちゃ〜ん♪」
「うるせえよ、この酔っ払い!結局俺が送るはめになるんじゃねえかよ!」

小峯に抱えるようにして支えられながら、ふわふわとした足取りを楽しむ俺の頭を、バシンと叩いてくれたその表情が、呆れた色に染められている事など、確かめて見なくともわかっていた。
それでもヘラヘラと笑い続ける俺の頭のネジは、完全に根こそぎ吹っ飛んでいるのではなかろうか。

「ほら!しっかり昇れっての!重いんだよ、力抜くなバカ!」
「や〜ん、怒っちゃや〜よ!おんぶして〜小峯ちゃ〜ん」

何も楽しい事などないはずなのに、酒の力を借りてふわふわとおぼつかない足取りの俺は、アパートの階段を昇る足取りすらも危うくて。

「バカ言ってんな!自分とたいして体格の変わんねえ男を、背負えるかってんだ!」

完全なる酔っ払いと化していた俺は、ブツブツと文句を言う小峯の頭を、何が楽しいのかバシバシと叩き続け。
小峯にしてみれば、ようやく辿り着いたアパートの2階。「鍵を出せ」とかなんとか喚く小峯に、相変わらずヘラヘラと笑うだけだった俺は、自分の部屋の前に立つ人影の存在に、一瞬で酔っ払っていたはずの意識が戻ってくるのを感じていた。

「光流?ボーッとしてないで、鍵出せって言ってんだよ!」
「なん…で…?」
「は?光流?……って…あれ?」

今の今までふわふわと浮いていた意識が、一瞬で冷水を浴びせられたかのように凍りつき。同時に足すら止めていた俺を覗き込んできた小峯が、視線を追うようにして見つめた先。
そこに立つ人影の存在に、同じように気付いた小峯が、呆然とした声で呟く。

「あれって…今度こそ一ノ瀬 新なんじゃねえの?」

そんな問いかけにビクリと肩を揺らした俺は、その瞬間、今度こそ完全に酔いが覚めていた。

「寒い、さっさと開けろよ」

流すような冷たい視線。そして発された低い声。
それにまた震える俺は、何で?とも、どうしたんだ?とも言えないまま。

「聞こえねえのかよ」

憮然とした表情のまま言い放つその声と、隣に立ったままの小峯から聞こえてきた「マジかよ…」という呟きと。
そのどちらもが耳に届き、それでも動けないでいた俺は、もしかしたら夢でも見てるんじゃないかなんて…そんな事を考えていた。

「こいつ誰?」

呆然としたまま、1歩も動こうとしない俺の目の前に、痺れを切らしたかのように歩み寄ってきた新が、見下ろす視線で小峯へと視線を流し、すぐに俺の方を真っ直ぐに見据えてくる。

「あ…お、俺!光流の同期で小峯って…」
「聞いてねえし」

有名人を目の前にして緊張しているのか、どこか上ずった声で答える小峯に、バッサリと切り捨てるかのような言葉。
それにムッとした小峯の気持ちが伝わってきて、ようやく俺は我に返り新の腕を掴んでいた。

「ごめん…今開けるから」
「光流?」

微かに震える俺の声に気付いたのか、小峯がムッとしたままの視線を投げかけてくる。

「小峯もごめん…送ってくれてありがとう。あのさ…この事は……」
「別に誰に言いふらしたりもしねえよ。それより大丈夫なのかよ?」

俺達の間に流れる、普通ではない雰囲気に気付いてしまったのか、心配するようにかけてくれたその言葉に無言のままで頷く。

「何の心配だよ。もういいから帰れば?」
「な…っ!?」
「新!小峯もごめん、本当にありがとう」

何故かわからないが、新の不機嫌がビリビリと伝わってきて。
今こいつが、小峯に対してとんでもなく理不尽な事を言っているのはわかってる。小峯は酔っ払った俺を送り届けてくれたというのに、それに対する礼を口にするどころか、どこか挑発するような新の口調には、さすがに俺だって憤りを感じたけど。
ここで俺が小峯をかばうような事を言えば、きっと新の意味のわからない怒りに拍車をかけてしまうと、それだけはわかってた。

「本当に大丈夫なんだな?」

元来、負けん気の強い小峯が、見下ろす新の視線に怯んだ様子もなく、もう1度確認するように俺に問いかけてきて。それにコクンと頷けば、渋々といった様子で、それでも何度も俺達を振り返りながら今昇ってきたばかりの階段を下りて行った。
その背中に、ごめん…と心の中で何度も謝罪を繰り返し、再び新へと視線を向ければ、何事もなかったかのように掴んでいた俺の手を振り払い、さっさと部屋の前まで戻ってしまう。

「何してんだよ。さっさと開けろって」

そうして発された言葉は、どこまでも自分勝手なそんな台詞。
ここで何の用だと問いかけても、それに対する答えなど返されない事はわかっていたから。ただ俺はその言葉に従い、玄関に差し込んだ鍵を回すことしかできなかった。

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