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<<陽生side>>
『大晦日の夜から、うちに泊まりにこないか?』 そんな誘いを受けたのは、もう2日寝ると〜お正月〜♪なんて、そんな子供染みた替え歌を歌ってしまいたくなる30日の昼日中。 両親が営む花屋も暮れの休みに突入していて、浅葉さんも冬休み真っ最中だから、俺たちはいつもの公園の芝生の上で逢瀬の時間を過ごしていた。 何もこんな寒空の下、こんなところで座り込まなくとも、デートならいくらでも行くところがあるじゃん!と、そう抗議の声を上げた俺に、「きみとここで会ってると、不思議と気持ちが落ち着くんだ」なんて。 思わず腰が砕けちゃいそうなくらい優しい笑みでそんな事を言われたら、もう何も言えなくなってしまうじゃないか。 まあでも、今日は幸い雲ひとつ見当たらないくらいに晴れ渡ってるし。 ぽかぽかと暖かな陽射しも降り注いでるから、そこまで寒さも気にならないけどさ…。 なんて、そんな遠慮深い事なんて言ってやるもんか! 「寒い!いくら天気よくたってさ、この風は反則だろ!」 いくら暖かい陽射しが降り注いでいようとも、こうも絶え間なく吹く風に晒されていたんじゃあ、どれだけ着込んでいたって身体が冷え切ってしまって堪ったもんじゃない。 しかも、何をするでもなく、ただ昼飯片手に座り込んでいるだけだなんて、凍えてくださいって言ってるようなもんじゃないか。 「こうすれば温かいよ」 肩を竦ませ文句を言った俺に視線を向けてきたこの人が、クスッと笑みを浮かべたと同時に手を伸ばしてきて。 え?と思ってる間もない内に、その腕の中へと抱き込まれる。 「ちょ…ちょっと!?」 そりゃさ、休日のビジネス街の一角に位置するこの公園内に、見渡す限りでは人影もほとんどない状態だけど。でも、一応ここは公共の場なわけで。 しかも、目に眩しいほどの太陽の陽射しが燦々と降り注ぐ、周りに遮るものなど何もない、これ以上ないってくらいの公の場なんだぞ!? 慌てて身を捩り、その腕の中から抜け出した俺を、やっぱりクスクスと楽しそうな笑みを浮かべるこの人の瞳が見つめてきて。 俺にとっては自宅のすぐ目の前だってのにも関わらず、いつ知り合いに目撃されてしまうかもわからないってな状況にも関わらず、不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。 「大晦日の夜から、うちに泊まりにこないか?」 そうして、これまた唐突に切り出された誘いの言葉。 「大晦日って…明日じゃん」 「そう。2人で年越しをしないかい?」 「ん〜…でも、うちは家族で正月を過ごすってのが、恒例行事のひとつだからなあ」 親父とお袋、そして3つ下の妹と4人揃って正月を迎えるというのは、特に強制されたわけじゃないけれど、俺たち家族の暗黙の約束のようなもので。 「新しい年を迎える時には、やはり家族が揃っていないとな」と、俺が高校に上がる年の正月に、親父が酒を片手に嬉しそうに話してた。 高校生にもなれば、友達と2年参りに出かけてみたいだとか、そんな風に思わないでもなかったが。そんな親父の言葉を聞いてしまった後では、それを実行に移すことが妙に躊躇われ。 今になって考えれば、思春期を迎えた息子がそんな事を言い出すだろうと、そう踏んだ親父なりの無言の中の牽制だったのかもしれないけど。 無理だと匂わせた俺の返事に、「それならば仕方がないね」と言ったこの人が、一瞬見せた落胆の表情。 「浅葉さんだって、正月は家族が家にいるんじゃないの?」 そうだよ!泊まりに来ないかと誘いをかけてくるけどさ、そもそも未だ実家暮らしで、一人暮らしをしているわけじゃないこの人の家には、当然家族だっているわけで。 そんな中、のこのこと泊まりになんて行けるかよ。 「うちは……もう長い事正月に家族が揃う事なんてないからね」 穏やかな笑みを浮かべながら、呟くように漏らされたその言葉が、何故かやけに切なくて。 そう言えば、初めてこの人の家に行った時も、家族の誰とも顔を合わさなかったんだっけ。 あれから何度か遊びに行ったけど、いつだってこの人以外にあの家に人は存在しなくて。 「じゃあ…1人なの?」 「そうなるかな?2日の日には、客が来たりするから父も母も帰ってるだろうけど」 付き合い始めてもう1ヶ月になるのに、俺はこの人の事をあまりよく知らない。 あまり自分の事を話すのが好きじゃないのか、この人がどんな仕事をしている人なのか、俺は未だに詳しく知らないんだ。 家にまで行ってるってのに、それもおかしな話だよなって思うし、やっぱり知りたいって思いもあるけど。無理に聞き出すような事はしたくないし。 「でも…ごめん。やっぱり明日は無理だと思う」 もう1度ごめんと呟いて、申し訳なさから俯いてしまった俺の頭を、大きくてゴツゴツとした温かな手が撫でてくれて。 「気にしないで。俺のほうこそ、変な事を言い出してしまって、すまなかったね」 かけられた優しい声と、その中に見え隠れするこの人の切なさに、思わず潤みそうになる瞳を誤魔化すように、今度は俺の方からその首筋にギュッと抱きついた。 「陽生?見られてしまうよ?」 さっきは自分から抱き締めてきたくせに、俺からすると困ったような笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にする。 「ごめんね…でもさ、浅葉さんの都合が悪くなかったら、1日のお昼からでも一緒に初詣に行こう?」 「いいのかい?」 「朝一緒に食卓囲んで、あけましておめでとうって挨拶を交わしさえすれば、それで解放されるからさ」 何だか照れくさくて、抱きついた腕を解かないままに約束を持ち出した俺を、「ありがとう」なんていいながら抱き締めてくれる腕が力強くて。でも、どこか縋るような切なさすら感じられて。 そうしてそっと落とされた口付けに、ここが公共の場だとか家の近所だとか、さっきまで気になっていた状況ですら、頭の奥片隅へと追いやられてしまっていた。 <<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m COMMENT
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