駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

片恋 act.1

カテゴリー : 片恋
気付けば視線が追いかける。
ふとした仕草にドキッとする。
見つめられるその視線に、胸が高鳴る。

いつも傲慢なくせに、抱き合うその時だけ、優しく囁くように名前を呼ばれ鳥肌が立つ。
伸ばされた指先に触れられた瞬間、全身に甘い疼きが走り、思考の全てを支配される。

そして認めるしかない恋心──…。

わかってる。
決して俺のものにはならない。

その腕に優しく抱き締めるのは、いつだって俺じゃなくて。
その唇が求めているのは、いつだって俺じゃなくて。

違う誰かに愛を囁くおまえを、見ていたくなんかないのに。
俺じゃない誰かに向けられる愛を、見ていたくなんかないのに。

それでも離れられないのは、例え僅かな時間でも独占していたいから。
それが俺の独りよがりの勘違いだとしても、その瞬間は俺だけを見ていてくれているのだと、そう信じていたいから───…。

そして捨てきれない想いを抱えたままで、自ら踏み込んだ底なし沼に、もう全てを飲み込まれてしまっているのかもしれない。




初めてあいつと会ったのは、ありがちだけど、桜が満開に咲き誇る陽気な春の日。
真新しい制服に身を包み、新生活のスタートに胸躍らせ、意気揚々と高校の正門をくぐったあの日──…なんて、そんな優等生ぶるつもりはないさ。

別に、高校に入学するからといって、新生活のスタートだとか、胸を躍らせるだとか、そんな安物のドラマみたいな設定は俺の中にはなかった。
まあ確かに、桜は満開に咲き誇ってはいたけどさ。ってか、あれは満開時期を少し過ぎた、散り行く桜の樹だったんじゃねえの?

陽気に晴れ渡った真っ青な空に、淡いピンクの桜の花弁は確かによく映えてはいたが、風が吹くたびに大量に舞い落ちてくる花弁は、正直ちょっとウザったかった。

というように、俺は優等生なんて呼べるようなタイプではなかったし、かといってグレていたわけでもなく。
本当に群集の中に紛れれば、その他大勢に同化してしまうような、どこにでもいる何の取り得もない少年だった。

反してあいつは──…そうそう、話を戻そうじゃないか。
俺があいつと初めてあったのは、確かに桜が満開に咲き誇る陽気な春の日で。
でもそこは、見るものによっては感動的な、風に舞い散る桜の花弁の中でもなんでもなくて。
入学式だというのに、ザワザワと私語に溢れかえった体育館の中だった。
お偉い方々のお言葉やらなんやら、いい加減飽きあきしていた新入生も在校生も、大欠伸をかましたり好き放題喋ったり。

とにかく、厳かに執り行なわれるべき式の真っ最中とは思えない空気に、館内が包まれ始めたその時だった。
一瞬大きくざわついた館内が、次の瞬間にはシンと静まり返り。
特に話も聞いていなけりゃ、一言だって言葉を発する事はしなかったものの、ふかした欠伸は数え切れず。
そしてまさに、俺が何十回目かわからない欠伸をかまそうとした瞬間だった。

一変した場の雰囲気に、漏れ出しそうになっていた欠伸を噛み殺し、何事かと周りの視線を追ってみれば、何の事はない壇上に立つ1人の男子生徒の姿。
順番から言えば、今は新入生代表の挨拶ってとこか?だとしたら、あいつは俺らと同じ1年だよな?
それで?何でみんなそっちを見て静まり返ってんの?
そんなに息を飲んでしまうくらい男前だってか?

どれどれ、その面をしっかりと拝ませてもらおうじゃねえの。
ちょっとの好奇心で向けた視線の先。そこに立つ男子生徒は、確かに身長もスラリと高かった。顔も…まあ、テレビに出てくる何ちゃらって芸能人に少し似てるかな?程度にはカッコよかったし、一応男前の部類に入るかな。
だからって、こんなに静まり返って見つめるほどかよ。あいつ自体が芸能人だってんならわかんなくもないけどさ。

そいつが代表の挨拶文を読み上げ始めると、やっぱり周りは物音ひとつ立てずに、壇上の奴を食い入るように見つめてる。
さっきまでのお偉いさん方の挨拶のときとは、雲泥の差?えっらい違いじゃね?
そんな事を思い、ついつい吹き出しながらも、さっき噛み殺した大欠伸をひとつ。

悪いが俺は、男に見惚れる趣味なんかねえよ。おまら揃って、そっちの世界の住民なわけ!?
欠伸のしすぎで目尻にたまった涙を指先で拭いながら、明らかに壇上の奴に見惚れていると言っても過言ではない様子の生徒達を、半ば呆れた思いで見回していた。
あの一応は男前の部類に入るらしい奴に、女が見惚れるってんならまだ話もわかるさ。
でも、今この場所に女は存在しないわけで。いるとしても、保護者か教職員の中だけなわけで。

そう、俺が入学した高校は、知る人ぞ知る、天下の私立男子校だったのだ。
だから、今周りでバカみたいに奴を見つめている連中は、間違いなく男なわけで。当然奴も、一応男前って比喩したんだから男だろ?
男が男に見惚れるってなんだよ!?有り得なくね!?
何?もしかしてここは、そっちの世界の方々の集まる高校だとか言ったりする?
勘弁してくれよなぁ〜…な〜んてね。

もちろんそんな事を真剣に考えたわけじゃないけど、それでも周りの同級生達が、あいつに羨望やら憧れやらが混じったような視線を向けていたのは確かで。どうやらその波に乗り遅れてしまっていたらしい俺は、退屈しのぎにそんな事を考えながら、1人で突っ込みを入れると言う虚しい行為を繰り返していた。

それが、正真正銘俺とあいつの初めての出会い。
まあ、出会いなんて言うにはお粗末過ぎるとは思うけどね。
お互い言葉を交わしたわけでもなけりゃあ、視線を交わしたわけでもないんだから。
でも、お互いの存在を意識下に入れたって意味では、やっぱり出会いって言ってもいいんじゃねえかなって、俺は勝手にそう思ってる。

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