「夏休みは何してる?」
「特に予定なかったら、学生最後の夏休み、一緒に遊び倒さない?」
「ケイちゃん、ケイちゃん」
「俺ら今度合コンすんだけどさ、一役買ってくんない?」
「ちょっと気が早いけどさ、卒業旅行の計画、みんなで立てねえ?」
「ケイちゃん、ケイちゃん」
「ケイちゃん、ケイちゃん」
試験最終日の今日、それぞれに受ける学科や科目は違うものの、こうして大学へと顔を出せば自然と圭一の周りに群がってくるハイエナども。
『けっ!夏休みだからって、浮かれてんじゃねえぞ!タコッ!』
『合コンだと〜?冗談じゃねえってんだ!』
『卒業旅行って、いくらなんでも気が早すぎんだろっ!!』
そのひとつひとつに、心の中で悪態をつく晴彦の機嫌は、時間がたてばたつほどに、圭一の周りに集まる輩が増えれば増えるほどに悪くなっていく。
「な〜んか、いつの間にやら、みんなのアイドル化してねえ?ケイちゃん」
「最初に俺らが仲良くなったのにな〜今や弾き出されてないかい?」
「ケイちゃん困ってんぞ。助けなくていいの?」
「うるせえな…」
囲まれている圭一の様子を、少し離れている場所から見つめながら、チュウ達がほんの少しのため息と共に吐き出す言葉。そうして問いかけられた台詞に、仏頂面のままでぼやくように呟く。
「あ〜らら…お気に入りを取られちゃって、機嫌悪いよ。この子ったら」
「マジでうるせえぞ、チュウ太郎!」
「きゃ〜っ!僕にあたらないで〜」
晴彦が不機嫌になればなるほど、その反応を楽しむかのようにからかってくる友人達をギロリと睨みつけ、どうにも治まらないイライラを抱えたまま、乱暴に椅子から立ち上がる。
「ハル〜どこ行くんだよ〜?」
「うるせえ!ヤニ吸ってくんだよ!放っとけ!」
ニヤニヤと、そんな擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべながら声をかけてくるチュウを一蹴し、鞄も持たずに教室を飛び出す。
校舎を出て向かうのは、中庭の端に位置する、ベンチの置かれた喫煙場所だった。
その場所を目指しながら、ズボンのポケットに突っ込んであった煙草を取り出し、よれて曲がった煙草を咥える。そして辿り着いた場所で100円ライターで火を点し、思いっきり吸い込んだ紫煙を恨みを込めて吐き出した。
それでも胸に生まれたもやもやもイライラも、一向に消える気配が見えず、何度も同じ行為を繰り返す。
「ムカつく……」
一体、自分は何をこんなにイライラしているのか。
チュウや笹野や駒井が、自分以外のツレと仲良く話していたって、全然気にならない。むしろ、たまにあのやかましい連中から解放されると、自分のやかましさを棚に上げて清々するとすら思えるのに。
圭一が自分以外の誰かと親しげに話しているのは気に食わない。圭一にはそのつもりはなくとも、圭一はその状況に困っているのだと理解はしていても、やっぱり気に食わない。
それは、『友達』に抱く感情としては、少々行き過ぎたものだと、さすがに晴彦にだってそれくらいの自覚はあった。
だからといって、まさかそれが恋愛の感情に結びつくだなどと、思考の隅にだって掠りもしないのは、けして晴彦が鈍感なせいではない。これまで同性を相手にそんな感情を抱いた事がないのだから、そう簡単には結び付けられないのは仕方のない事。
でもだからこそ、今自分の胸の中に巣食う感情に説明がつかなくて。だから余計にイライラする。
「ケイちゃんもケイちゃんだ……嫌なら、まともに相手しなけりゃいいじゃんよ」
自分で自分の感情を持て余している。その事でイライラして、こんな理不尽な文句だって口をついて出てしまう。
でもいつだって、こうして呟いてしまってから、すぐに凄く後悔する。
一緒に行動するようになって、自分だって結局はまだたったの2ヶ月。そういう意味では、今圭一の周りに群がる輩と大して変わらない。
それでも、やっぱり一番最初に声をかけたのは自分で、一番最初にその魅力に気付いたのは自分なのだ。
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