駄文倉庫

完全オリジナルにて、BL小説なる駄文を書き綴っております。 性的描写を含む表現も出てまいりますので、18歳未満の方のご閲覧はご遠慮くださいませ。

eternal lover act.4

カテゴリー : eternal lover
<出会い編>

広い大学キャンパス内で、学部が違えばそうそう接触する事などない。それは晴彦と圭一にしても例外ではなく。それまでの3年間一度として接触をしなかった2人が、始めてその存在を意識下に置いたのは、無事に4回生へと進級をした8年前の初夏の頃だった。
当然学部が違えば、専攻科目だって違う。専攻科目では教鞭を共にする事がない他学部の学生と、それでも共通科目を受ける教室で肘を突き合わせていれば、付き合いだって自然の流れで生まれてくるものだ。
2人が出会ったのも、そんな共通科目の授業の中での事だった。

しかし、いくら接する機会があるとは言え、広い大教室での授業の中で、確実に知り合えるというわけではない。
それに、昔から明るく常に周りに人が集まるタイプだった晴彦と、大人しく控えめで1人でいる事の多かった圭一。いつだって数人の友人と集まって、教室の中央の席を陣取っていた晴彦と、目立たないように一番後ろの端の席で授業を受けていた圭一。たとえ教室を同じくしても、そんな2人になかなか接点など生まれるはずもなかった。
でも、運命というのは、望まずとも引き寄せられる不思議な力を発するのだと、根が単純な晴彦は、今でもあの時の出会いを本気でそうであると信じていた。



その日、前日の合コンで少々羽目を外しすぎた晴彦は、朝目が覚めた時見知らぬ部屋のベッドの上で、見知らぬ女を抱いていた。

『勘違いしないでね〜私、彼氏いるから』

やっちまった……と、全く初めてとは言えない己の悪行に、目を覚ました女に何と言い訳をしようと、そんな事を考え始めた時、小さな笑い声と共に耳に届いた言葉。
あからさまにホッとした表情を浮かべた晴彦に対して、ほんの少しムッとした表情を浮かべた女が、裸のままの上半身を隠す事なくベッドの上へと起き上がり、まるでおまけだと言わんばかりの仕草で唇に軽いキスを仕掛けてきた。

『結構よかったわよ。さてと、シャワー浴びてくるけど、帰るならお金はちゃんと置いていってね』

某女子大との間にセッティングされた合コンで知り合い、スタート直後から気の合った彼女は、確か晴彦よりも2歳年下の2回生のはずだが、あまりにも男慣れしたその仕草や言葉に、まるで年上の女にあしらわれているような気分になる。
そして、そんな彼女の言葉で初めて、今自分がいるこの場所がホテルの一室なのだと理解した。
ホテルの部屋に女の子を1人残して帰るのもどうなのだろうと、そう思いはしたものの、本人もああ言ってる事だし、相手にも彼氏がいて自分もこの先の付き合いを続けようなどとは思っていない相手だ。
一夜限りを楽しんだ相手に、そこまで気を遣う必要もないかと、彼女が浴室へと姿を消したと同時にベッドを降り衣服を身に着けた。
そして言われた通り、ポケットから取り出した1万円札を部屋に設置されているテーブルの上に放り出し、1人ホテルを後にした。

「う〜ん…」

ホテルを出てすぐの路地裏で、思いっきり伸びをしながら見上げた空は、初夏の季節にふさわしいすっきりと晴れ渡った青色で。
記憶をすっ飛ばしてしまう程に酒を煽った翌朝だというのに、まだ若い身体には二日酔いの影など微塵も見当たらず。むしろ下半身がすっきりとした中での脳みそは、満足すぎるほどの爽快感を訴えていた。
特に女にだらしがないとは思ってないが、酒の席での過ちなら、一般の若い男が経験する程度には経験してきていた。それも、若い頃の特権だと、そう開き直ってしまえる時点で、人によってはだらしないと形容されても仕方がないが。

大学からは程近いホテル街。そこを抜けてキャンパスへと向かう中入った、「代返しといてやったから、昼飯奢れよ」という友人からのメール。それに「サンキュー」と返しながら、だったら1時間目はこのままサボってもいいか……などと不真面目な事を考えていた。
それでも1時間半の講義時間。いくらのんびり歩いたところで、10分も歩けば大学構内についてしまい、1時間目の講義も終わるにはまだ30分も早い時間だった。
校門をくぐったところで、どうするかと一瞬考えを巡らせ、結局向かったのは友人が代返をしてくれた講義が行われている大教室で。教室の後ろ扉からこっそりと中を窺い見れば、遥か前方の教壇に立つ教授が、まさにマイクを通して熱弁を奮っている真っ最中だった。
その場所からぐるりと教室内を見回し、いつも行動を共にしている友人達の姿を探す。いつものように中央付近に席を陣取っているはずだとわかってはいても、広い教室の中でその背中を探し出すのは容易ではなく、結局探す事を諦めた晴彦は、入ってすぐの一番後ろの席へと腰を落ち着けた。

「ふぁ〜…」

一応教室に顔を出してはみたものの、今から聞いたって内容なんてたいして頭に入ってこない。後で友人にノートを写させてもらおうと、鞄から教材を取り出すこともせずに大欠伸をかました晴彦が、そのまま手にした鞄を枕に机に突っ伏しようとした時、不意に感じた視線に意識を向ければ、1人の学生の呆気に取られたような瞳がそこにはあった。

「……うっす…」

同じ長机の延長線上。2人分の席を空けた先に座っていたその人物は、今時あまりお目にかかれない、顔の半分を覆い隠してしまいそうなほどの大きな黒ぶちの眼鏡をかけていて。
視線が合ってしまった事への気まずさに、苦笑しながらも挨拶ともとれない小さな呻きのような声を発し、まさに突っ伏しかけた手を軽く挙げて見せた晴彦の対応に、ただでさえ大きな瞳をますます大きく見開き、今度はキョロキョロと辺りを見回し始める。

「あんた以外に、誰がいるってのよ」

そんなに見回してみたところで、彼が座っているのは壁際の一番端の席で。従って晴彦が向けた視線の先には、彼以外に存在しないのだ。思わず古臭い反応だなと突っ込みたくなる彼の挙動に、プッと吹き出しながら言い募る晴彦に罰の悪さを感じたのか、眼鏡の下の透き通りそうに白い色をした頬に微かに赤みが差し。

「そうだよね。ごめん…」

消え入りそうなほどに小さい声で呟いたその声が、その肌と同じくらいに……ちょっとびっくりする透明さだったから、男にしちゃ線が細すぎるなと、不躾すぎると思いながらもついまじまじと見つめてしまっていた。

「えっと……本当にごめんなさい」

そんな晴彦の視線に居心地の悪さを感じたのか、おどおどと瞳を揺らした彼が、また小さな謝罪の言葉を繰り返しながら、逸らした視線を机に広げたノートへと戻してしまった。
まだ僅かな赤みを残す、本当に透き通ってしまいそうな肌がまるでゆで卵のように滑らかで。横顔だからはっきりと見て取れた、大きな瞳に飾りのようについている、眼鏡のレンズに付きそうなほどに長い睫毛が、パチパチと落ち着きなく繰り返される瞬きのせいで揺れる様がまるでおもちゃのようで。
何故だかわからないが、その瞬間目を離せなくなってしまった彼の横顔に、ほんの僅かドキドキと速まる鼓動を感じていた。
その時の晴彦には、その鼓動の意味を理解する事はできなかったが、それは間違いなく一目見たその時に、彼に恋に落ちた瞬間だった。
それまでの恋愛経験の中で、当然同性に対してそんな感情を持った事がなかった彼が、それを理解するまでに、あとほんの少しの時間が必要だったが、それもそんなに遠くはない時間の中での事──…。

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