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eternal lover <プロローグ>
<<プロローグ>>

会社からその最寄り駅までは徒歩にして2分、そして自宅最寄り駅から自宅マンションまでは、やはり徒歩にして5分足らず。電車に揺られる時間は30分あるけれど、それにしたって通勤時間をトータルして考えれば、これ以上ないくらい好条件な環境と言える。
最寄り駅の改札をくぐり、これからの本格的な冬の到来を思わせる冷たい風に、ほんの僅か身を竦ませながら歩き始めた帰り道、ふと思いつき立ち寄った24時間営業のスーパーで食材を買い込んだ。

少し緩めたネクタイもだらしなさを感じさせないスーツ姿で、買い物カゴを片手に食材を手に取る姿は、間違いなく独身貴族の風体で。それでも、見た目は悪くないこの男。ほどよく焼けた肌にはっきりとした二重瞼は、実年齢よりも若く見えるが、オールバックにした髪型でそれを誤魔化し、一般的な女性から見れば、きちんと自炊もこなすそれこそできた男の部類に数えられるだろう。
しかし、その手にしたカゴを覗き見れば、1人暮らしをしている割には多すぎる食材の数に、ほんの少し胸をときめかせるかもしれない女性も、落胆のため息を零すしかない。
「今夜は恋人とお鍋でもするのかしら」……と、レジに立つ若い娘がそのカゴの中身を通しながら、ほんの少しの落胆をその表情に浮かべるも、そんな視線に気づかない様子の男は、さっさと会計を済ませてその場を立ち去ってしまった。

会社帰りの独身サラリーマンやOLが、同じようにしてレジを通り過ぎる中、買った食材を袋に詰めていた男が何かに気づいたかのように携帯を取り出し、慣れた手つきで操作をしたその画面を見つめながら、思わずフッと笑みを零す。
「恋人からのメールかしら…」と、先ほどのレジの娘が窺うように向ける視線にも気づかないこの男。彼女の推測通り、たった今恋人から入ったメールに笑みを隠し切れない、西宮 晴彦(にしみや はるひこ)29歳。



すったもんだの末、ようやく素直になる気持ちになったのか。ここ数ヶ月クセづいていた眉間の皴も、現金だと笑いたくなってくるくらいすっかりとなりを潜めた彼の表情に、ミラー越しにクスクスと笑みを零せば、罰が悪そうに視線を逸らすも、恐らくはこみ上げてくる高揚感を隠し切れないのであろう。どこか緩んでいるように見えるその頬に、改めてホッと安堵の気持ちが胸に広がってくる。

「ありがとう…」
「ん、お疲れ様」

そして、彼のマンションではなく、ある意味では通いなれたアパートの前に車を横付けし、降り際にボソッと耳に届いた声に笑顔で返せば、「お疲れ」と小さな返答。
アパートから届く小さな灯りの中へと、足取り軽く消えていく背中を見送りながら、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ彼もまた、1人になった途端に想いを馳せる恋人の姿を脳裏に描き、自然に頬が緩みだす。
仕事の忙しさから、一緒に暮らしながらも擦れ違う日々。それでも帰れば必ずそこにある存在に、それを思うだけで心が満たされる。

『約束だぞ』

早く帰れそうだと告げた自分にそう言った恋人の笑顔を思い出し、その約束を果たすべく逸る気持ちが、心持ちアクセルを踏み込む足を強くさせる。
そして、途中ふと思いつき立ち寄ったスーパーで、簡単な食材を買い込みながら、久しぶりに揃って食卓につける喜びに、そんな些細な幸せに、またひとつ笑みが零れ落ちた。
そうして再び戻った車の中、買い物袋を助手席に置き、ポケットから取り出した携帯でメールを打ち込んだ。
『もうすぐ帰るから』というメッセージを送信して、すぐにアクセルを踏んだ足は、ただ一直線に恋人と過ごす時間へと向かっていた。そうして、すぐに返信されてきたメールを信号待ちの車の中で確認すれば『もう家に着くぞ』というメッセージ。

画面を覗き込む彼の、ノンフレームの眼鏡のレンズにつきそうなほどに長い睫毛が、小さな笑みと共に微かに震える。青に変わる信号の中アクセルを踏み込む彼の、暗い車内に射し込む夜のネオンの光に照らされた白い頬が、そんな恋人からのメール1つで微かな赤みを浮かび上がらせる。
たったこれだけのやり取りの中でも、小さな幸せを噛み締める彼、鳴門 圭一(なると けいいち)29歳。



永遠を誓い合った恋人達の、そんなささやかな日常の1コマ。
それでも、彼らがここにくるまでに辿った道のりは、けっして平坦なものではなかった。
そんな彼らの、切なくも甘い昔話を、ほんの少し語らせてもらおうと思う───…。

<<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m

 

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  2008/05/04 eternal lover コメント(3) TB(0) 記事No(69) ▲TOP