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きみがくれる恋の色 act.2
<<4万HITキリリク>>

迎えた週末。金曜日からの出張を終え、日本に帰国したと同時に京悟が足を向けたのは、他ならぬ恋人の働く店だった。
日曜日の今日、店自体は定休日なのだが、店舗の2階を自宅とする陽生はその場所にいるはずだ。
空港から向かう中、送信したメールに返信がなかった事が、ほんの僅かな不安を落とすが。それでも、途中で返ってくるだろうと思っていたメールは、結局届く事はなかった。

自宅に戻る事なく、スーツ姿で立った店の前。すでに辺りは陽が落ちかけていて、薄暗い闇を落とし始めた景色の中、思わず立ちすくむ。
店が開店している時ならまだいい。しかし、店正面の入り口のシャッターが降りている中、連絡も取れない状況では、自宅玄関の方に回るしか手段はなく。
陽生との関係が関係なだけに、いきなり両親と顔を合わすはめになるのは、どうしても躊躇われた。と、こんな事を気にする時点で、とことん自分らしくないと、思わず苦笑が漏れるが。

「仕方がない」

本当に、恋を覚えたての未熟な少年みたいだと、自分を揶揄するかのように考えながら、スーツの胸ポケットから取り出した携帯のコールを鳴らす。
数回のコール音の後で、無機質な女の声と共に留守番電話へと切り替わる事を告げられ。
またため息をひとつ零しながら、仕方なく電話を切った。
そして、すぐに思い直し、今度は自宅の方へとかける電話。しかし、そこにも応答はなく、家族揃って出かけてしまっているのかと、諦め再び電話を切った。

陽生の家族は仲がいいらしく、イベント事は未だに家族揃って過ごすのが習慣になっているらしいし、こうした休日には、揃って食事に出かける事も多いと聞いていた。
それも、京悟と付き合いだしてからは、比較的こちらを優先してくれるようにはなったのだが、それでもそんな家族団欒の時間を、ただ自分の我侭で邪魔ばかりできるはずもなく。

来週からは4月に入り、その第1週目さえ抜ければ、この忙しさも一応の落ち着きを見せるだろう。また1週間、まともに会えないのかと思えば、さすがに落ち込みはするが。
2人とも学生と言うわけではなく、それぞれに忙しいのなら仕方のない事だと、そう自分に言い聞かせ、京悟はその場を後にした。

今日は、このまま大人しく帰って、出張で疲れた身体を休めるかと思いはするものの、真っ直ぐ帰ったところで待つ人などないだろう自宅が、このときは妙に寒々しく感じられ。
いくら実家暮らしといえども、迎えてくれる人間がいない事になど慣れ切ってしまっているはずなのに。陽生と出会い、その温もりを知ってからは、その事がやたらと虚しく感じるのだ。

いっその事、実家を出て1人で暮らすかと、最近では真剣にその事を考えている自分がいた。
どちらにしても1人であるという状況には変わりはないものの、やはり実家という事があってか、陽生はあまり京悟の自宅には来たがらなかった。
両親がいる事はほとんどないのだが、自分達の関係を思えば、彼なりに多少の後ろめたさがあるのだろう。それを理解できるからこそ、あまり強くも誘えず。
かと言って、陽生自身も実家暮らしの為、もっぱら外で会う事が多いのだ。

当然だが、外で会おうとすると、自然と制限される状況も多く。
それを考えれば、1人暮らしをする事によって、その部屋で持てる2人きりの時間というのは、かなり魅力的なものである事に違いはなかった。

「部屋を探すか…」

こうも会えない状況が続くと、さすがに真剣に考えたくもなってくる。
駅へと向かう道すがら、そんな事を考えていた京悟の耳に、その時不意に届いた笑い声。
よく知ったその声に、思わず綻ぶ表情を隠しながら視線を向けた先。ちょうど改札口から出てきた恋人の姿を認めた。

「はる……」

声を掛けようとして、その笑顔が向けられている存在に気づき、思わずその声を飲み込む。
別に、何か特別な状況があったわけではない。ただ、陽生が楽し気に話している相手が、彼と同年代くらいの女の子だったというだけだ。
それでも、久しぶりに見たその笑顔が向けられた先にいるのが、自分でないという事実が少し面白くない。

「あれ?浅葉さん?」

その時、立ち止まってしまっていた京悟に気づいた陽生が、その表情にほんの少しの驚きを貼り付け。しかし、当然駆け寄ってくるわけではなく、彼女の速度に合わせた歩調でゆっくりと近づいてくる。

「陽生…」
「どうしたの?ニューヨークじゃなかったっけ?あ、今日までか」

ろくに連絡を取り合わなかった原因が、例の自分の軽率の発言にあったのだと、それを気にしていただけに、どう声を掛けていいものか迷っていた京悟にとって、あまりにもあっさりと、いつもと変わらない調子で話しかけてくる陽生の態度には、多少面食らった。
単に忙しかっただけで、陽生にとってはそこまで気に留める事でもなかったのかと思えば、広がる安堵感はあるものの、ほんの少し複雑な心境も否定しきれない。
気を揉んでいたのは自分だけなのかと、肩透かしを食らった気分で、思わず愚痴を零したくなる自分の幼さに、気まずさすら覚えるのだ。

「ああ、さっき帰国したばかりでね」
「で?会社に寄ったの?相変わらず忙しいみたいだね」
「いや……まあ、うん…」

陽生に会いに、店の前まで行ったのだと、今それを言う事はさすがに躊躇われて。
適当に言葉を濁す京悟へと、陽生の隣に立つ女の子の視線が興味深げに注がれる。

「ねえねえ、ハルくん。お知り合い?」
「え?ああ、ちょっとね」

当然、恋人などと言えるはずもなく、それこそ言葉を濁す陽生を気に留めた様子もなく、向けられた彼女の視線の中に、慣れきった意味を感じ取った京悟は、愛想笑いを浮かべた。
この手の視線には慣れている。それこそ、これまでに何度も向けられてきた類のものだ。

傍から見れば、ルックスが良く物腰の柔らかい京悟は、どうやら自分が女の目を引く類に位置するらしいと、本人がしっかりとそれを自覚をしていた。
そして、その立場を利用し、意識的に女性に対して微笑みを向ける事は、ある意味身についてしまったひとつの癖のようなものだ。そうやって、これまで何人もの女を落としてきたのだから、そういう意味では、この微笑みは最強の武器と言えるだろう。

しかし、今の状況だけで言えば、決して彼女を落とそうという意図があって出た行動ではなかったのだが。それはやはり、染み付いてしまった癖とでも言おうか。
いや、正直な事を言えば、多少の含みがなかったとは言い切れない。
どんな理由があるのかは知らないが、自分からのメールに返信も寄越さず、電話にも出ようとしなかった陽生が、例えその事実に気づかなかっただけとはいえ、自分が少なからず不安を覚えたその時間、あろう事か女と2人でいたのだ。

(まあ…彼女と2人きりだったかどうかはわからないが…)

直接問いただしたわけでもないのに、そんな勘繰りをしてしまう自分が滑稽で、まるで言い訳するかのように心の中で呟きを漏らす。
しかし、どちらにしても、今自分が面白くないと感じてしまっている事は、誤魔化しようのない事実で。
だからこそ向けたその微笑みに、彼女の表情が女のそれへと変化した。

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  2008/04/20 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(61) ▲TOP