毎日校内で見かけるあいつは、いつも取り巻きと思われる輩に囲まれていて。いつだって穏やかな笑みを貼り付けていた。
俺はと言えば、それなりに友人はできたものの、変わらずパッとしない学校生活を送っていて。
別にそれ自体に不満があったわけでもないし、元々人付き合いに関してはドライなタイプだったから、そこそこの付き合いで十分に満足してたんだ。
そんな俺とあいつでは、完全に過ごす時間も住んでいる世界も違っていたし、同じクラスでもなかった俺達の間に接点などが生まれるはずもなかった。
それに、俺はファッション誌を読むタイプではなかったから、いくら有名なモデルだと知ったところで、あいつに対して何の興味も持てなかったんだ。
だから、校内でその姿を見ても、相変わらずぞろぞろと連れて歩いてんなぁ…くらいにしか思わなかった。
そんな、1度としてまともな会話を交わした事のなかった俺達が、初めて会話を交わしたのは、初めてその存在を知ったあの春の日から1年後の事。
2年に進級した俺は、新学期だからと言って別段いつもと変わりなく。
新しいクラスに、1人もつるんでた奴がいなかったら面倒くさいなぁ…などという事を考えながら登校した。
登校してすぐに、掲示板に張り出されていたクラス発表を見て、思わず2度見してしまったのは、出席番号が今年も同じだったという理由ではなくて。
『愛川 光流(あいかわ ひかる)』なんて、どっかのアイドルか!?と自分でも突っ込みたくなる名前のおかげで、毎回変わる事のない出席番号。
だから、クラスのてっぺんに名前を書き出されている事になど、今更驚きゃしないし、だいたい驚くようなこっちゃない。
そんな俺が2度見してしまう程度には驚いた理由は、そんなアイドル顔負けの自分の名前の下に、あいつの名前を見つけたから。
『一ノ瀬 新(いちのせ あらた)』…間違いない。1年前の入学式でやたら注目を集め、ずっと取り巻きを連れて歩いてるあいつだ。
考えてみれば、別にそれは不思議な事でもなんでもなくて。
同じ高校で同学年であれば、誰にでも起こりうる事だ。
だから、何もそこに運命的なものなど、その時の俺は感じたりしなかったし、ただ有名人と同じクラスだってさ…なんて。
結局はその程度の感情しか湧いてはこなかった。
まあ…少しはミーハーな気持ちはあった事は、否定できないけど。
そうして足を踏み入れた教室内で、すでに登校していたあいつの周りには、たくさんのクラスメートが集まっていて。
あいつと席を前後とする俺にとっては、自分が座るべき場所が侵されているという、不本意極まりない状況が生み出されていた。
「ちょっとごめん。いいかな?」
俺の席とあいつの席の間に立っていた、クラスメートの1人に声をかければ、「ごめん、ごめん」なんて軽い返事。
それに対して、ほんの少しムッとしたのは、自分の名誉の為に言わせてもらえるならば、決してあいつの事が羨ましいと思ったからじゃない。
別にどれだけの人間があいつの周りに集まろうとも、直接俺には何の関係もなけりゃ、気にするような事でもないさ。
でもなぁ、人のテリトリーにズカズカ入り込んでおいて、謝ったはいいものの、結局その場所を退こうとしないってのはどういう事だってんだ!
(あ〜っ、チクショウ!面倒くさい奴と同じクラスになっちまったなぁ…)
そんな、言葉に出しては言えない愚痴をこぼしながら自分の席に半ば無理矢理腰掛けた俺は、次の瞬間背中に突き刺さるような視線を感じて、思わず振り返っていた。
そこにあったのは、穏やかな笑みを浮かべながら周りを取り囲むクラスメート達と談笑する、一ノ瀬 新……あいつの姿。
でも何故か、あいつの瞳は真っ直ぐに俺を捉え、そこには周りを囲む和やかな雰囲気とは正反対の印象すら受ける程の、はっきりとは読み取れない鋭さが宿っていた。
その瞳に射抜かれ、ゾクリと背筋に震えが走った俺は、後になって考えれば、その瞬間からあいつに囚われてしまっていたのかもしれない――…。
その日を境に、平凡だけどそれなりに充実していた俺の学校生活が、ガラリと一変した。
席が前後だったと言うだけで、望む望まないに関わらず、俺達の距離は一気に縮まりを見せ。気付けば常に行動を共にするようになっていた新のせいで、静かだった俺の環境が、常に周りを人に囲まれるという、ある意味不本意な状況へと変貌を遂げてしまったのだ。
最初の頃こそ、慣れない環境に辟易して、さりげなさを装い輪の中から抜け出そうとしていたが。
「光流、どこに行くんだよ?」
その度に声をかけられ、何故か一緒になってその場を離れようとする新のせいで、結局はぞろぞろとくっついてくる輩を前に、俺は逃亡を謀る事を諦めた。
「あのさぁ…別に俺に気ぃ遣わなくていいからさ、みんなと話してろよ」
「気なんて遣ってねえよ?俺が光流といると楽だし楽しいんだ」
それは暗に、たまには1人にさせてくれという俺の願いを含ませた台詞だったのだが、それを知ってか知らずか、ニコニコと笑顔を浮かべながら言った新に、それ以上何も言えなくなってしまった。
それに、俺みたいに平凡な奴のどこがそんなに気に入ったのか、一緒にいる時の新は本当に楽しそうで。
他のクラスメートと接する時よりも、俺に接する時の新の口調がほんの少しだけ崩れる事に、どこかで優越感にも似た感情を抱いていたのかもしれない。
確かに、性格も周りの環境もまるで正反対の俺達だったけど、不思議なくらい気が合って。
そこに何か特別な意味などなくても、新と共に過ごせる時間と空気は俺にとっても居心地のいいものだったんだ。
ただひとつ、常に周りを誰かしらに囲まれているという状況さえ除けば……。
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