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きみがくれた空の色<正月企画> act.2
<<京悟side>>

幼い頃からの記憶を辿ってみても、大晦日から正月にかけて両親揃って家にいたという覚えがない。共に会社を支える役職に就く両親は、年末・年始関係なく、忙しく世界を飛び回っているような人たちだったから。
毎年、広々としたリビングの、大きなダイニングテーブルの上に置かれていた、子供に与えるにしては厚みのあるお年玉袋を、兄と2人手にしていた事ははっきりと覚えている。

それが当たり前なのだと思っていたし、特に寂しいと感じた事はなかったけれど。
それでも高校を卒業した頃から、クリスマスイヴの夜を過ごすかのように、大晦日にも毎年ホテルのスイートを取り、その夜限りの恋人を相手にその場限りの愛を囁いていた気がする。
考えてみれば、俺は寂しかったのかもしれないな。だから、その場限りの愛を囁きながらでも、一緒に過ごす女を誘い出していたのかもしれない。

しかし、さすがに今年はそんな気にはなれず。
陽生という存在がこの手の中にある今、一夜限りの恋人の存在などは、全く無用のものだ。
例え陽生と共に過ごせずとも、今の俺にとっては、あいつ以外の温もりなんて何の意味もなさなけりゃ、そんなものでは一瞬の満足だって得られない。

遠くに聞こえる除夜の鐘の音を聞きながら、一人傾ける琥珀色の液体が注がれたグラス。
シンと静まり返った室内の静けさは、痛いほどの冷え込みを見せる外気によって、この家全体が包み込まれているような錯覚すら感じさせられる。

「こんなにも静かだったか…」

ポツリと呟いた自分の声が、やけに大きく響いたような気がして。
こんな気持ちで新年を迎える自分に、自嘲が漏れ出す。

「2年越しで沈み込むのは、さすがに避けたいな」

誰に聞かせるわけでもない。そんな独り言を呟きながら確かめた時間は、新年を迎えるまで残り10分を指し示していて。
今からベッドに潜り込んだところで、結局眠れるわけがないじゃないかと、諦めて手にしたグラスの中身を一気に煽った。

ピンポ〜ン……

その時鳴り響いた、深夜になろうというこんな時間に、失礼極まりないチャイムの音。

「誰だ…?」

普通、こんな時間にチャイムを鳴らすか?
そんな憤りにも似た感情を抱きながら降りた玄関先。

「はい…」
「あ、お…俺…陽生だけど…」

無愛想に言い放った言葉の先に聞こえてきた声に、思わず勢いよく扉を開け放っていた。

「わ…っ!危な…っ…」

開けた扉の向こう、それを避けるように飛びのいたのは、鼻の頭を真っ赤にして、唇から白い息を吐き出す陽生の姿。
少々乱暴だった俺の行動を責め、文句を言いかけたその言葉を遮るように、目の前に現れた愛しい人の身体を抱き締めた。

「ここ玄関先だっての!」

そう抗議の声を上げる陽生に苦笑を返し、その身を解放しながらも唇に落とした口付け。
抵抗される間も与えず、すぐに離した唇に、文句を言いたそうな唇とは裏腹に、その瞳が足りないと言いたげな不満を訴えてくる。

「上がれるかい?」

微笑みかけながら問いかければ、ムッとした表情を浮かべながらも確かな頷き。
その手を引きながら迎え入れた部屋の中、「もういいだろう?」そう耳元に囁きながら、寒空の下を訪れてくれた冷たい身体をしっかりと抱き締めた。

「これないんじゃなかったの?」
「そうだけど……みんな寝ちゃったし。それに…やっぱり、あんたに一番最初におめでとうって言いたくて」

俺の背に手を回し、ぎゅっと抱きつき胸に顔を埋めてきた陽生が発した、照れ隠しのようなくぐもった声色。

「朝には1回帰るけど」
「送っていくよ」
「うん……」

すぐに帰るのではなく、朝までここに居てくれると言うその言葉に、先ほどまでの寒々と冷え切っていた心が、ふんわりと温もりに包まれる。

「冷たくなってしまっているね」

そっと重ね合わせた唇は、やはり冷たくて。

「あんたはあったかい。ねえ…温めてくれるんだろ?」

甘えを含んだ囁きと、仕掛けられる深い口付け。

「もちろんだよ──…」

そんな答えと共に、次第に深く貪りあう熱い塊。
徐々に上がっていくお互いの息遣いと重なるように、遠くで聞こえていた鐘の音がその音を止め、辺りを今度は温かな静寂が包み込む。
あんなにも寒々しかった空気が、陽生の存在ひとつで、こんなにも温かく胸に染み渡る。

「愛しているよ──…陽生」

縺れるようにして倒れこんだベッドの上で、口付けの合間に、唇に乗せ送り込んだ愛の囁き。
満足そうな笑みを浮かべた陽生が、伸ばし絡めてきたしなやかな細い手で、俺の心ごと包み込むように抱き締めてくれた。

「俺はちゃんとここにいるよ──…俺もあんたの事愛してるから…京悟さん…」

新しい年を迎えたその瞬間に紡ぎだされた言の葉は、これまでに感じたことがないくらいに心震わせ。
もう1度強く抱き締めた愛しい存在を、確かめるように、何度も何度も口付けを交わした。

<<fin.>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m



↓これより下は、あとがきコメントになっております。

<<comment>>
最後までのお付き合い、ありがとうございました。
大晦日の日にUPという事で、『きみがくれた空の色』より、プチお正月企画でございます。

今回は前・後編にて、陽生と浅葉の両視点で書かせていただきました。
そしてこの小説が、2007年最後の更新となります。
まだまだ立ち上げたばかりのサイトではございますが、お越しくださり拝読くださった皆様、本当にありがとうございました。

2008年も、不定期更新ながら、頑張って書いていきたいと思いますので、ひとつお付き合いの程よろしくお願いいたします。
皆様、よいお正月をお過ごしくださいませねvv

最後までのご拝読、本当にありがとうございました。

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  2007/12/31 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(17) ▲TOP
きみがくれた空の色<正月企画> act.1
<<陽生side>>

『大晦日の夜から、うちに泊まりにこないか?』

そんな誘いを受けたのは、もう2日寝ると〜お正月〜♪なんて、そんな子供染みた替え歌を歌ってしまいたくなる30日の昼日中。
両親が営む花屋も暮れの休みに突入していて、浅葉さんも冬休み真っ最中だから、俺たちはいつもの公園の芝生の上で逢瀬の時間を過ごしていた。

何もこんな寒空の下、こんなところで座り込まなくとも、デートならいくらでも行くところがあるじゃん!と、そう抗議の声を上げた俺に、「きみとここで会ってると、不思議と気持ちが落ち着くんだ」なんて。
思わず腰が砕けちゃいそうなくらい優しい笑みでそんな事を言われたら、もう何も言えなくなってしまうじゃないか。

まあでも、今日は幸い雲ひとつ見当たらないくらいに晴れ渡ってるし。
ぽかぽかと暖かな陽射しも降り注いでるから、そこまで寒さも気にならないけどさ…。
なんて、そんな遠慮深い事なんて言ってやるもんか!

「寒い!いくら天気よくたってさ、この風は反則だろ!」

いくら暖かい陽射しが降り注いでいようとも、こうも絶え間なく吹く風に晒されていたんじゃあ、どれだけ着込んでいたって身体が冷え切ってしまって堪ったもんじゃない。
しかも、何をするでもなく、ただ昼飯片手に座り込んでいるだけだなんて、凍えてくださいって言ってるようなもんじゃないか。

「こうすれば温かいよ」

肩を竦ませ文句を言った俺に視線を向けてきたこの人が、クスッと笑みを浮かべたと同時に手を伸ばしてきて。
え?と思ってる間もない内に、その腕の中へと抱き込まれる。

「ちょ…ちょっと!?」

そりゃさ、休日のビジネス街の一角に位置するこの公園内に、見渡す限りでは人影もほとんどない状態だけど。でも、一応ここは公共の場なわけで。
しかも、目に眩しいほどの太陽の陽射しが燦々と降り注ぐ、周りに遮るものなど何もない、これ以上ないってくらいの公の場なんだぞ!?

慌てて身を捩り、その腕の中から抜け出した俺を、やっぱりクスクスと楽しそうな笑みを浮かべるこの人の瞳が見つめてきて。
俺にとっては自宅のすぐ目の前だってのにも関わらず、いつ知り合いに目撃されてしまうかもわからないってな状況にも関わらず、不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。

「大晦日の夜から、うちに泊まりにこないか?」

そうして、これまた唐突に切り出された誘いの言葉。

「大晦日って…明日じゃん」
「そう。2人で年越しをしないかい?」
「ん〜…でも、うちは家族で正月を過ごすってのが、恒例行事のひとつだからなあ」

親父とお袋、そして3つ下の妹と4人揃って正月を迎えるというのは、特に強制されたわけじゃないけれど、俺たち家族の暗黙の約束のようなもので。
「新しい年を迎える時には、やはり家族が揃っていないとな」と、俺が高校に上がる年の正月に、親父が酒を片手に嬉しそうに話してた。

高校生にもなれば、友達と2年参りに出かけてみたいだとか、そんな風に思わないでもなかったが。そんな親父の言葉を聞いてしまった後では、それを実行に移すことが妙に躊躇われ。
今になって考えれば、思春期を迎えた息子がそんな事を言い出すだろうと、そう踏んだ親父なりの無言の中の牽制だったのかもしれないけど。

無理だと匂わせた俺の返事に、「それならば仕方がないね」と言ったこの人が、一瞬見せた落胆の表情。

「浅葉さんだって、正月は家族が家にいるんじゃないの?」

そうだよ!泊まりに来ないかと誘いをかけてくるけどさ、そもそも未だ実家暮らしで、一人暮らしをしているわけじゃないこの人の家には、当然家族だっているわけで。
そんな中、のこのこと泊まりになんて行けるかよ。

「うちは……もう長い事正月に家族が揃う事なんてないからね」

穏やかな笑みを浮かべながら、呟くように漏らされたその言葉が、何故かやけに切なくて。
そう言えば、初めてこの人の家に行った時も、家族の誰とも顔を合わさなかったんだっけ。
あれから何度か遊びに行ったけど、いつだってこの人以外にあの家に人は存在しなくて。

「じゃあ…1人なの?」
「そうなるかな?2日の日には、客が来たりするから父も母も帰ってるだろうけど」

付き合い始めてもう1ヶ月になるのに、俺はこの人の事をあまりよく知らない。
あまり自分の事を話すのが好きじゃないのか、この人がどんな仕事をしている人なのか、俺は未だに詳しく知らないんだ。
家にまで行ってるってのに、それもおかしな話だよなって思うし、やっぱり知りたいって思いもあるけど。無理に聞き出すような事はしたくないし。

「でも…ごめん。やっぱり明日は無理だと思う」

もう1度ごめんと呟いて、申し訳なさから俯いてしまった俺の頭を、大きくてゴツゴツとした温かな手が撫でてくれて。

「気にしないで。俺のほうこそ、変な事を言い出してしまって、すまなかったね」

かけられた優しい声と、その中に見え隠れするこの人の切なさに、思わず潤みそうになる瞳を誤魔化すように、今度は俺の方からその首筋にギュッと抱きついた。

「陽生?見られてしまうよ?」

さっきは自分から抱き締めてきたくせに、俺からすると困ったような笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にする。

「ごめんね…でもさ、浅葉さんの都合が悪くなかったら、1日のお昼からでも一緒に初詣に行こう?」
「いいのかい?」
「朝一緒に食卓囲んで、あけましておめでとうって挨拶を交わしさえすれば、それで解放されるからさ」

何だか照れくさくて、抱きついた腕を解かないままに約束を持ち出した俺を、「ありがとう」なんていいながら抱き締めてくれる腕が力強くて。でも、どこか縋るような切なさすら感じられて。
そうしてそっと落とされた口付けに、ここが公共の場だとか家の近所だとか、さっきまで気になっていた状況ですら、頭の奥片隅へと追いやられてしまっていた。

<<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m




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  2007/12/31 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(16) ▲TOP