薄闇のベールが包み込む部屋に響くのは、身体に絡みつくシーツの布擦れの音と卑猥な水音。そして、俺の唇から漏れ出す矯声。
「……っん…あ、ああ……」
最初の頃は、自分の唇から漏れ出す女のような喘ぎが気になったりもしたが、3年も聞き続けりゃいい加減慣れてくる。
今では恥ずかしいなんて思いは、遥か遠くへ追いやられ、ただ快楽だけを貪欲に求める自分にも慣れ切ってしまっていた。
「あ、あ…ひぁああ…っ!」
遠慮の欠片もない激しい腰の打ち付けに翻弄され、霰もない声を上げ更に奥へと誘い込もうと腰を揺らす俺の恥態を、欲望に濡れニヤリと細められた瞳が、余すとこなく視姦するように舐め回してくる。
その視線に射抜かれるだけで、全身を駆け巡る言いようのない甘い疼き。
ガクガクと、揺さぶられるままに身を預け、自分でも感じ取れるくらいにヒクヒクと蟲めく内壁が、更に激しい快感を求めて、内側で牙を剥き出しにする欲望の証を締め付ける。
「すっげ…全然足りねえってか?この淫乱野郎」
「…っは…ぁあん…っ」
そんな嘲りの言葉でさえも、本能のままに欲を貪る今の俺にとっては、甘美な愛撫のひとつでしかなかった。
「も…あ、ああ…イク……イカせて……っ!」
ガツガツと、腸壁を突き破られるのではないかと思うほどの激しい突き上げに、身悶え狂う俺の欲望が限界の悲鳴を上げた。
溢れ出て止まらない先走りの蜜が、さっきからきつく握り締めたままのこいつの手をぐちゃぐちゃに濡らしていく。
「何回目だよ。いい加減出し切って、底つきんじゃねえの?」
そう言ってニヤリと笑うこいつの低い声が、ただでさえ限界に震える腰にズドンと響き、それだけで果ててしまいそうになる。
「あ…新…あら…たぁ…っ!」
叶えられない望みに自ら腰を揺らし、解放を求めて伸ばした手が、いともあっさりと払い退けられ。
「や…あ、あ、あああ――!」
解放を許されない熱が身体の奥に大きな渦を巻き起こし、乱れ悶える俺の脳みそはすでにドロドロに溶け出してしまっていた。
こうなってしまっては、何ひとつまともに考える事などできやしない。
何もかもが溶け出し、後に残るのは、ただ快楽を求め続ける卑しい本能と、決して口に出して伝える事など叶わない想いだけだ。
どれだけ欲しても与えられないのは、欲望の解放だけではなかった。
今の俺が何よりも欲しいのは――…。
「新……新……」
息つく暇もないほどに突き上げられ、狂いそうになる感情を必死の思いで繋ぎ止める。
そうして伸ばした手でその首筋へと縋るように抱き付き、引き寄せ求めた唇は、突き放すようにあっさりと逸らされてしまった。
わかってる――…。決して与えられる事のない温もり。
それでも望んでしまうのは、浅ましい俺の心。
こうしてドロドロになる程に抱き合うのに、身体中余す所なく貪られるのに、1度として与えられない唇への刻印は、切ない程に俺の心を掻き乱す。
まるで逃げるように逸らされる唇が、苦しいと叫ぶ俺の心をズタズタに切り裂いてゆく。
一番望む場所に、どんなに欲しても与えられない口付け。その意味は、嫌になるくらいわかってる。
こうして抱き合っていても、俺達は恋人同士じゃないから。
ただ欲望を吐き出すだけのこの行為に、それ以外の意味などない事を知っている。
恋人としての愛情などないくせに俺を抱くおまえが、それでもギリギリの立ち位置で、俺を親友という鎖で繋ぎ止めておこうとしているのがわかるから。
だから俺も、いつも逸らされてしまう唇を、それ以上追いかける事ができなくなってしまうんだ。
割り切った関係だったはずなのに。それが辛いと感じるようになったのは、いつからだろう。
欲望を吐き出すだけだったこの行為が、意味を持ち始めてしまったのは、一体いつからだったのだろう。
叶わないと知りながら、それでも求めてしまう心に初めて涙をこぼしたのはいつだっただろう――…。
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