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きみがくれた空の色<番外編> act.1
初めてあの人を見た時は、こんなところで昼飯も食べずに、何をボ〜ッとしてるんだろうって、それだけだった。

いつもの指定席に腰を下ろそうとする時、いつもふと視界の端に映るあの人は、ぼんやりと焦点の定まらない目つきでどこか遠くを見ていて。

一見しただけでは、なんの苦労も知らない、いかにもエリートですって風貌で。
身に纏うオーラも違うって言うのかな……ちょっと嫌味なくらい、きっちりと着込んだ高そうなスーツが似合ってて。

でも、エリートサラリーマンと言うには、どこか崩した髪形は、逆の意味でとても好感が持てた事だけははっきりと覚えてる。

この公園に来る時、最初は人を惹きつけるオーラを全開にしているように感じるのに、ふとした瞬間にその全てを閉じ込めてしまうような、まるで周りを遮断するかのように気配を消し去っているようにさえ思えるあの人の事が、不思議なくらい気になってた。

いつもその姿を視界の端に認めながら、きっと俺はあの人に近づける機会を伺っていたんだと思う。
自分でもよくわからないけど、無性に気になって仕方がないあの人と、1度でいいから会話を交わしてみたかった。

だからあの日、昼休みの時間いつものように公園に来たあの人が、突然バタンと仰向けに倒れて。
驚いた俺は思わず駆け寄ってた。

突然覗き込んだ俺に、同じように驚いた表情を浮かべたあの人が、なんだか無性に可愛くて…って、自分よりあきらかに年上の人掴まえてその言い草もおかしいけど。

そして……無性に話をしてみたくて。
『くたびれたオヤジ』だなんて心にもない事を言いながら、断りもなく隣に腰を下ろした俺を、あの人は拒絶しなかったから。

浮かれてたんだよな。
何故かわからないけど、すごく嬉しくて。

その日からお昼の1時間足らずを一緒に過ごすようになって、俺だけじゃない、あの人…浅葉さんも俺に興味を持ってくれてるんだって事はすぐにわかった。
それがまた嬉しくてくすぐったくて───…。

だけど、あんなに鈍い人だとは思わなかった。
30超えたいい大人が、俺から謎掛けしなきゃ自分の気持ちに気付かないなんて。

しかも、見た目だけで言えば、あんなにも遊び慣れてそうな気がするのに。
いや、実際遊び慣れてはいるんだろうけどさ、絶対この人は本気の恋愛なんてした事がないって、妙な確信が持てたんだ。

それがまた嬉しかったなんて、絶対に言ってなんかやんないけどさ。
たいした恋愛経験がない俺にだってわかる事なのに、当の本人は全然自覚ないんだもんなあ。

でもそれがまた可愛かったりね。
だから、こうなったら絶対俺に本気だって認めさせてやるって思ったんだ。
思ったんだけど…甘く見てたのは俺の方かもしれない。

さすがとでも言うべきか、無駄に年を重ねてきてるわけじゃないとでも言うべきか。
しょっぱなから強烈なキスを仕掛けてきたあの人は、その瞬間に自覚したらしい気持ちを前に、全く怯む事なんてなくて。

むしろ、俺の方がタジタジしちゃうくらいに積極的で、大人の男の手腕…って言い方はおかしいかな。
とにかく!こっちが照れくさくなるくらいに、落ち着き払った物腰で甘い雰囲気を仕掛けてきた。

2度目のキスをされて、ぶっちゃけ足腰立たない状態で、くったりとその逞しい胸板に身を預けた俺の耳元で、これまた腰が砕けそうなくらい甘い声で囁いたんだ。

「仕事が終わる頃に迎えにくるから、俺の部屋においで」

って!いきなりそっち!?
目を白黒させる俺に、クスクスと楽しそうな笑みを浮かべて。

「言っとくけど、部屋に誰かを招くのは初めてなんだよ」

それって立派な殺し文句だよ!!
恋愛初心者なんて、そんな純情ぶるつもりはないけどさ、でもだからこそ、あんなキスをされた後に部屋に誘われたりなんかしたら、あらぬ期待だってしちゃうだろ?

何だか悔しくて、行かないって言った俺を、それでもクスクスと笑みを浮かべながら見つめてたあの人は、すっかりその気になってる俺に気付いてたんだと思う。

ちくしょう!
部屋には行ってやるけど、絶対手を出させてなんかやんないんだからな!

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  2007/12/13 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(8) ▲TOP
きみがくれた空の色<番外編> act.2
(R-18)

そう思ったはずなんだけどなあ…。
なんでしょう、この状況は?

仕事が終わる頃、約束通り迎えに来た浅葉さんに連れて来られたあの人の自宅は、周りに立ち並ぶ家々を見てもわかるように、あきらかな高級住宅で。

デカイ!とにかくデカイ!

「まさか…実家なの?ってか…金持ちのボンボン?」
「30も過ぎて、親と暮らしているなんて少し恥ずかしいんだけどね」

恐る恐る尋ねた俺に、明確な答えをくれないまま、苦笑しがら案内してくれた浅葉さんの部屋は、これまたデカイ!
一体何畳あるの?ってか、俺の家が丸々1個入っちゃうんじゃないの?

それくらい広々とした室内は、見るからに高級そうな革張りのソファの前に、これまたデカデカと置かれた大型液晶テレビの存在。

ってか、リビングじゃなくて、自室にソファがあるって何だよ。
部屋の隅に置かれた、キングサイズのベッドも気になるし…って、違うぞ!?
別にそのベッドが気になるってのは、そういう意味じゃないからな!!

別に誰に心を読まれたわけでもないのに、慌ててそんな言い訳を心の中で叫んだ俺は、自らの置かれた状況ってのに、かなりテンパってたんだと思う。

「何か飲むかい?」
「ビール!!」

促され腰掛けたソファは、革張りなのに固くなんかなくて、むしろ身体を包み込むようにふんわりと沈み込む感触は、ヤバイくらいに気持ちがよくて。

それでも、慣れない居心地の悪さにもぞもぞとお尻を動かしながら、問われた言葉に思わず即答で返してた。

「ビールって…きみ未成年だろ?」
「今時そんな固い事言うなよ。オヤジくさいなあ」

緊張から、そんな憎まれ口を叩く俺に、浅葉さんは気を悪くした様子もなく。
いやまあ…俺の憎まれ口ってのは、今に始まった事じゃないんだけどね。

「そうだね。確かに、俺もきみくらいの年齢の時はすでにアルコールの味を知ってたな」

そう言いながら浮かべられた、穏やかで柔らかい笑みに、ドキドキしてしまった。

「でもごめんね。生憎と、普段からビールは飲まないものだから…ブランデーかワインしかないんだ」

ブランデー…ワイン……。
うちにはビールはおろか、発泡酒しか常備されてないってのに。

「それでもよければ、すぐに用意してくるけど」
「なんでもいい。とにかく何か飲みたい」

またもや即答した俺に、やっぱりクスクスと笑みを浮かべて頷いた浅葉さんは、ちょっとムカつくくらい余裕だった。

その後、持って来てくれた見るからに高そうなワインは、アルコール初心者の枠を出ない俺にも飲みやすくて。
進められるままにグラスを開けて…気付いたら──…この状況!!

「な…な、なななっ!?」
「きみは本当に不思議な子だね」

部屋に入った時から、そのデカさにもそりゃあびっくりして、気にはなっていましたともさ。
だからって何で今、俺はそのベッドに押し倒されちゃってるわけ!?

俺の耳の横につかれていた浅葉さんの手が、ゆっくりと俺の髪を梳いてきて、囁かれる甘ったるい声とその仕草にうっとりしちゃって……って違うから!!

「こんなにも、誰かを愛しいと思うのは初めてだ。そういう意味では、俺はきみが言ったように、これまでまともな恋愛をしてきてなかったんだろうな」

そう言った浅葉さんの顔がゆっくりと近づいてきて。
ちょっと待って!って思うのに、アルコールの力を借りてふわふわとした思考を前に、俺はまともな言葉を吐き出す事ができなくて。

「わからせてもらう必要なんてないよ……もう俺はわかってるから」
「な…な、何を…?」

「きみの事を愛してる───…」

ズシンと腰にくる甘い囁き。
同時にやんわりと塞がれた唇から、この人の温もりが伝わってきて。

「……っふ…ん…」

抵抗らしい抵抗なんて何ひとつできないままに、ただでさえアルコールでトロトロになってた俺の思考は、与えられる甘すぎるキスに完全にドロドロに溶け出してしまっていた。

そっとそっと、緩やかな動きで俺の身体を這い回る、浅葉さんの大きな手は気持ちよくて。
何度も吸い上げられた唇と舌の痺れが、そのまま全身をも甘く包み込んでいく。

唇で、舌で愛撫されながら、その指先が不意に布越しに胸の飾りへと触れた瞬間、今まで感じた事がない痺れが背中に走った。

「ぅあ…っ!あ、あ…っん」

漏れ出した、鼻から抜けるような甘ったるい声が、自分のものだなんて信じられなくて。
慌てて口元を押さえた右手が、やんわりとした仕草で解かれ。

「声、聞かせて…」
「だだだ…っ!だって…っ!!」

こんな声、俺は女じゃないのに!
なのに胸をいじられて気持ちいいなんて、絶対ありえないから!!

「きみの声を聞いていたいんだ」
「そ…そん、そんな…っ!?」

ここは浅葉さんの実家で、招き入れられた時に家族と思われる人…ってか、誰とも顔を合わさなかったのは確かだけど。
それでも1人暮らしをしている家ではないわけで。

「大丈夫、今誰もいないから。だから、何も気にする事はないんだよ」

あ、そっか…。
って、違うから!

いや、誰もいないってんなら、別に声を聞かれる事自体は気にしなくていいわけだし、それはそれで安心なんだけど。

でもでもでもっ!!
俺が恥ずかしいんだっての!

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  2007/12/13 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(9) ▲TOP
きみがくれた空の色<番外編> act.3
(R-18)

「気になるかい?だったら、そんなの気にならなくなるくらい、きみの事を溶かしてあげるよ」

フッと笑みを浮かべた浅葉さんが、手早く服を脱がされてしまった俺の胸へと顔を埋め、指先で軽く押していた突起を舌で転がし始めた。

「ひゃ…っぁ…んん…」

レロレロって…浅葉さんの舌が動くたびに、ビクビク震えちゃう俺の身体は、それだけで抵抗なんてできなくなっていた。

緊張で固くなった俺の身体をほぐすように、本当に緩やかな愛撫を施され、それだけですでに何も考えられなくなっていた俺は、次の瞬間ビクリと大きく震え、さすがに慌ててその大きな手を押さえ込んでいた。

だってだって!
浅葉さんの大きな手が、いつの間にベルトを外されていたのか、スルリとズボンの中に入ってきて、あろう事か、俺のビンビンに元気になっちゃってる一物に、下着越しに触れてきたんだぞ!?

「ちょ…ちょっと待って!」
「恥ずかしがる事はないんだよ」
「そんなん無理に……っん!」

文句を言おうとした唇が、またもいともたやすく塞がれてしまい。
絡み取られた舌を吸い上げられ、その裏筋を舐め上げながらまた吸われ。

この人……本当にキスがうまいんだよなあ…。
なんて、そんな事を考えているうちに、あっという間に身を包んでいた衣服という衣服を、全て脱がされてしまっていた。

気付いた時には、煌々と輝く灯りの下で、俺は産まれたままのあられもない姿をその視界に晒していて。

いくらなんでも、これは恥ずかしすぎる!
このまま進められたんじゃあ、もう明日から…いや、この瞬間からこの人の顔をまともに見れやしない!

「浅葉…さ…っん!電気…せめて…で…き……」

そんな事を訴える間も、胸に与えられる刺激と、ゆるゆると下半身で動き回る手の動きは止まってなんてくれなくて。

はふはふと、不規則な吐息を漏らしながら訴えかける俺に、「ああ、そうだったね」なんて、余裕たっぷりの笑みで返してくれた。

「俺としては、こうして見ていたんだけど」
「じょ…だん…っ!そんな事したら、すぐに帰ってやるからっ!」

噛みつくように言って、それまでさほど抵抗なんてできなかった俺が身を捩れば、仕方ないなんて言って手にしたリモコンで部屋の灯りを落としたこの人が、暗くなった部屋の中でギュッと俺の身体を抱き締めてきて。

「でも、先に進んでもいいって…そういう事だよね?」
「今更!!とっくに始めちゃってんじゃんか…」

文句を言いながらも、すでにこの人が与えてくる熱に、とっくに溶かされ始めちゃってる俺としては、ここで止められた方が困るんだ!

だって……どうすんだよ、こんなに元気になっちゃってる、俺の大事な大事な恥知らずな息子さんは。

あ──っ、もうっ!!
何流されちゃってんの?
俺のバカバカバカ───ッ!!

なんて、そんな文句だって長くは続かなかった。

「あ、あ…ぅ…あああっ!」

ゆるゆると扱かれていた手の動きが、次第に強弱をつけて上下へと動かされ、俺は呆気ないくらいに簡単に、握りこまれたその熱を解放してしまったんだ。

信じられない…いくらなんでも早すぎるだろう俺!
強がりの台詞なんて何ひとつ浮かんでこなくて、とにかく恥ずかしすぎて目を開けれない俺の目尻に、何度も何度も優しいキスが降ってきて。

「陽生くん…」

なんて、熱っぽく濡れた声で囁かれたりなんかしちゃったものだから、大丈夫なんだろうかって、少しの不安を抱きながら恐る恐る瞼を上げたそこには、もう蕩けちゃいそうなくらいに熱っぽい瞳があったから。

俺の痴態を前に、この人も欲情してくれてるんだって、その事が素直に嬉しかった。
だから俺は、伸ばした手をその首に絡ませ、誘うように口付けたんだ。

「もうさ…なんでもいいから早くしてよ。あんまり焦らされるのは好きじゃないんだ」

本当は怖いくせに、とっくに主導権なんて握られちゃってるくせに、強がりな俺は怖がってるなんて悟られたくなくて。

ゴクリと鳴った、浅葉さんの首筋に軽く歯を立てて舌を這わす。
と、不意に足に当たったこの人のズボンの前が、窮屈そうって突っ込みたくなるくらいに大きく膨れ上がっていて。

俺も思わずゴクリと喉を鳴らしていた。

「痛いのはヤだからね。思いっきり気持ちよくしてくんなきゃ、絶対許さないから」

そんな俺の最後の強がりに、やっぱり腰にくる甘い声で「わかった」って言ったこの人の、どこまでも余裕たっぷりなその態度に少しムカついたけど。

キスだけじゃなくて、愛撫も上手な浅葉さんが与えてくる刺激と快感に、文字通り身も心も…頭の中までもをドロドロに溶かされちゃった俺は、その夜何度絶頂に達したのかなんてわからなくなってしまった。

──…ってか!そんなん知りたくないし!!

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  2007/12/16 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(10) ▲TOP
きみがくれた空の色<番外編> act.4
(R-18)

「すごいよ…きみの蜜でトロトロだ」

俺が何度達したかわからない間にも、この人は身につけた衣服をそのままに、ちっとも乱れ着崩した様子なんて窺えない。

「も…俺ばっか…ずる…い…ひぁっ!」

はふはふと、相変わらず乱れたままの呼吸を整える事もできなくて。
それでも悔しい胸の内を吐き出す俺に、何が楽しいのかクスクスと笑みを浮かべるこの人の手が、たった今達したばかりの俺の熱棒をやんわりと包み込んできた。

「や…無理…っあ、あ…っんんん!」

信じられないけど、たった今その熱を放ったばかりのそこは、浅葉さんの手の動きに翻弄されるように、またもや高々と天を仰ぎ出した。
そんな自分の痴態をまざまざと見せ付けられ、気付いたときには生理的な涙がボロボロと零れ落ちていた。

自然に流れ出したその涙は、すぐに感情的なものへと姿を変え。
みっともないと思いながら止まらない涙が、情けないほどにぐちゃぐちゃに濡れ乱れる俺の下半身と同じように、ぐちゃぐちゃに頬を濡らす。

「陽生くん!?ごめんね、嫌だったかい?」

ふぇ…うぇ…と、みっともない嗚咽を漏らす俺を、慌てたように覗き込んできたこの人が、蕩けちゃいそうなくらいに優しいキスをくれて。
それだけで絆されちゃいそうになるなんて、俺ってとんでもないバカなんじゃないの!?

「さっきから…やだって…何回も言って……」

ひっくひっくとしゃくりをあげる俺の頭を、そのゴツゴツとした大きな手が何度も何度も撫でてくれて。
次第に落ち着きを取り戻し始めた俺は、その時になってようやくみっともなく涙を流す自分自身が、とんでもなく恥ずかしく子供っぽく思えた。

「焦らされるのは好きじゃないって言っただろ!ヤルならさっさとヤッてくれって言ってんの!」

飲み込まれ溺れそうなほどの羞恥の波に、もがき抵抗するように発した強がり意外のなんでもないこんな台詞。

「本当にいいんだね?」

困ったような笑みを浮かべながら、それでも穏やかな口調でそう問いかけてきたこの人が、本当はすごく迷っていたんだって。
それは、本当は俺を抱きたくなんてないんだという迷いなんかじゃなくて、俺を傷付けてしまうんじゃないかって、そんな迷いだという事は、その優しすぎる眼差しから嫌ってくらいに伝わってきた。

「いいから…っ!これ以上焦らされたら、本当におかしくなる……」

何やら胸に広がりを見せる甘い痺れに、うずうずと疼き出す身体の奥の熱を、どうやって処理していいのかなんて俺にはわからない。
この熱を沈めてくれるのは、目の前にいるこの人しかいないんだって、それだけはわかってた。

「わかった。きみに辛い思いはさせないから」

何かを決意したように、1度俺から離れ身を起こしたこの人が、身に纏う衣服を全て脱ぎ捨て。
露わになったその逞しい肉体が、視界から俺の全てを確実に犯していく。

不意に触れてきたその手の熱さに、攫うように抱きすくめられたその腕の力強さに、くらくらと眩暈にも似た感覚が俺の中を走り抜けた。

堪らない───…。
抱き締められるという、ただそれだけの行為が、俺の中に信じられないほどの欲望の渦を巻き起こし、確実にこの人へと傾いていく激情の存在を確かに感じていた。

「浅葉さ……」
「京悟だ。呼んでみて、陽生」

その名を呼ぼうと開いた唇を、そっと人差し指で塞がれて。そして耳元で囁かれた、低く甘い言葉の愛撫。

「京悟さん……」

その名を唇に乗せる。たったそれだけの事がひどく恥ずかしく、また俺を煽る。
視線を伏せてしまった俺に、これまた蕩けそうなくらいに妖艶な笑みを浮かべたこの人が、止まっていた愛撫を再開し。

完全に囚われてしまった俺の身体が、素直すぎるほどの反応を示しビクビクと跳ね上がった。

「ふぁ…あ、あ、ああ…っん…」

不規則に繰り返される吐息のリズム。
この人の与えてくれる快感の波と、自分の口から漏れ出す嬌声。その全てが俺の全てをドロドロに溶かし出す。

その愛撫に溺れそうになったその瞬間、これまで誰一人としてそんな風にして触れてきた事がない俺の再奥に息づく蕾へと、ねっとりとした質感を伴った何かが絡み付いてきた。

「や…っ!あ、あ…何…なに…っ!?」

驚きに目を見開き、信じられない思いで自分の下肢へと視線を移した俺は、そこに広がる異様な光景に、ますます目を見開いた。

あろう事か、迷うことなく俺の下肢へと顔を埋めるこの人が、その手でゆるゆると俺の中心でそそり立つ欲望を扱きながら、あり得ない箇所への愛撫を繰り返していた。
そう……あのねっとりとした温かな感触は、俺の蕾へと這わされたこの人の舌だったんだ。

それに気づいた俺は、慌てて身を捩り、与えられるなんとも形容し難いその感覚から抜け出そうともがく。

「陽生…少しだけ我慢して」

必死に逃げを打つ俺の腰を、この人の力強い手が押さえつけてきて。

「む…無理っ!そんなとこ…やぁ…っんん!汚…い…からぁ…離して…離…してぇ…っ!」

またもやみっともなく涙を流し、なんとか逃げ出そうと、思うように力の入らない足でシーツを掻く。

「だったら、このままやめとこう」

顔をあげ、そっとそっと宥めるように俺の髪を梳いてきたこの人が、穏やかな笑みを湛えた瞳で羞恥に震える俺を捉える。

「やめる…って?」

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  2007/12/16 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(11) ▲TOP
きみがくれた空の色<番外編> act.5
(R-18)

「ちゃんと慣らしておかないと、きみが辛いんだ。でもね、きみがどうしても嫌だと言うのなら、このまま止めたほうがいい。もっとね…方法はあるんだけど、生憎今日は何の準備もできていないから、これしか方法がないんだよ」

ごめんねって、切な気に揺れるこの人の瞳が、俺を大切にしたいんだって、傷付けたくないんだって訴えかけてくる。

この人の言う方法ってやつが、一体どんなものなのか、パニックに陥った俺は当然そんな事を問いかける余裕なんてなくて。
それでも、この人が与えてくれようとする愛情の大きさに、震える心が何よりもこの人を求めていた。

「ごめ…俺が焦らすなって言ったのに…こんなんカッコ悪いよな」

ギュッとその厚い胸板に縋るように抱きついた俺を、「そんな事ないよ」って言いながら宥めるように額へと口付けてくれる優しさが、じんわりと胸に染み込んできて。
同時に、どうしようもない欲望の存在が、ムクムクと俺の中で頭をもたげる。

「やめ…んなよ…いいから…俺、大丈夫だから」

怖い──…怖い怖い怖い!
恥ずかしくて恥ずかしくて、死んでしまいそうだ。
それでも、この人を感じて、この人の全てが欲しかった。

「本当にいいのか?」
「いいから…っ!これ以上恥ずかしい事言わせんなよ!」
「陽生……きみは本当に…」

ほぅっとため息をつきながら、ギュッと抱き締めてくれた温もりに、俺もまたほぅっと詰めていた息を吐き出す。

「きみは本当に可愛らしいな」
「かわ…っ!?」
「愛しているよ──…」

甘い甘い睦言。それと共に軽く触れるだけの口付けが頬へと落とされる。

俺も愛してる──…。そう続けたかった言葉は、再開された愛撫の渦に飲み込まれ、またも俺はまとまらない思考を必死で掻き集め、吹っ飛びそうになる理性を繋ぎ止めるのに必死だった。

「…っふ…ぅん、んん…あ、あ…っ!」

丹念に施される、あり得ない箇所への愛撫に、気を抜けばすぐにでもあられもない喘ぎが漏れ出す唇を、必死で噛み締め声を殺そうとするけど、これまでに感じた事がないほどの快感の波に飲み込まれそうになる思考がそれを許さない。

どうにかなってしまいそうなこの疼きを、早く解放してほしくて。
どうにかして欲しいと望む己の卑しさが、また大きな羞恥を運び込んでくる。

波打つ身体をやんわりと押さえつけられ、ヒクヒクと卑猥な蠢きを魅せ始める蕾を、それでもまだ嬲られ続け。
もう限界だった。甘い疼きと痺れを訴えるその場所が、舌を這わされ指でゆるやかに掻き回される内壁が、足りない刺激を求めてこの人の節くれだった指を奥へ誘い込む動きを見せ始める。

と、ゆるやかな動きだけを繰り返していたその指が、ある一点に触れ、グリッと回されたその先端がもたらす感覚が、ビリビリとしたありえないほどの快感を全身に走らせた。

「あ、あ…や…ぁぁあああっ!」

何!?なんなんだ…っ!?
知らない知らない知らない!こんな感覚知らない!

初めて感じる、恐ろしいほどの射精感をも伴うその刺激に、湧きあがってくる恐怖と快感に震える身体が、無意識のうちに逃げようとのたうつ。

「ここ…だね?」
「や…やぁ…っう…ぅぁあっ!あ…浅葉さ……」

その箇所を擦り上げられるたび、ビクビクと震える内股に、吸い付くように唇を寄せてきたこの人がそこを軽く吸い上げ、そんな僅かな刺激でさえも今の俺には十分すぎるほどの快感で。

不意に先走りの蜜を溢れさせる俺の欲望が、この人の熱い口腔へと迎え入れられ。
再び身を襲う痺れが、吸い上げられるたびにダイレクトな快感を運び込んでくる。

「だ…め…っ!ま…またイッちゃ…うっ!」

前と後ろに同時に与えられる刺激で、本気でどうにかなりそうだった。
女のように喘ぎ、この人に縋り、そんな自分が恥ずかしくてたまらないのに、どうしようもないほどに内側から湧きあがってくる欲望の存在を無視できない。

「いいよ…イッて…陽生」
「あ、あ、ああああ──っ!!」

耳元で甘く囁かれ、強く扱き上げられる欲望が全身に甘い痺れをもたらし。
次の瞬間、固く身を強張らせた俺は、絶叫に近い叫びと共に湧きあがる飛沫を解放した。

全てを吐き出した解放感に、うまく呼吸すら吐き出せず、ぐったりとベッドに沈み込む俺を、あやすようにそっと抱き締めてくれる腕が泣きたいくらいに温かくて。
自然に溢れ出してくる涙は、とんでもない痴態を晒した屈辱感からくるものではなく、心の底からこの人が欲しいと、この人を愛していると訴える俺の悲痛な叫びだった。

「ごめんね…俺もそろそろ限界だ」

そうして囁かれた告白。それを耳にした瞬間、ゾクリとした恐怖にも似た怯えが込み上げ。
それでもこの人が欲しいと叫ぶ心のままに、その厚い胸板にギュッと縋るように顔を埋めた。

「いいよ…俺ばっか申し訳ないし…それに、俺ばっかイカされたんじゃあ不公平だ」

怖いのに、口をついて出るのはどこまでも強がりなこんな台詞。
俺の虚勢に気付いているんだろう。覗き込んでくるこの人の瞳には、フッと優しい笑みが浮かんでいて。

「ゆっくりね…きみを傷付けるような事はしないから」
「なんでもいいから……余計な事ばっか言ってないで、さっさとしろよ」

そんな俺の言葉にさえも、穏やかな笑みを湛えるこの人の表情は、蕩けちゃいそうなくらいの大きな愛情が溢れていた。

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  2007/12/20 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(12) ▲TOP
きみがくれた空の色<番外編> act.6
(R-18)

「俺も…愛してるから…。ずっとあんたの事を好きだったのは、俺の方だから──…」

やっと言葉にして伝える事ができた想いに、また溢れ出す涙は止まってなんてくれなくて。

「ありがとう…俺もずっときみの事が気になってた。俺も、ずっときみの事が好きだったんだろうな。愛しているよ、陽生」

嬉しそうに目を細めたこの人の、今日1日で何度も繰り返されてきた言霊。

もう1度ごめんねと囁いたこの人の熱が、そっと溶かされた俺の蕾へと押し当てられ。
ビクッと震えた俺を宥めるように唇へと落とされた口付けが、俺の全てを溶かし出すほどに濃厚な口付けが、それまで必死に繋ぎとめていた理性も何もかもを根こそぎ奪い去っていった。

「い…っ!ぅあ、あ、ああ──…っぅん!」

キスに酔いしれ、強張っていたはずの俺の身体から力が抜けたその一瞬を見逃さなかったこの人が、一気に腰を押し進めてきて。
途端に押し上げられるような、内臓をぐちゃぐちゃに掻き回されるような圧迫感に、機能の全てが破壊されてしまったのではなかろうかと、そんな錯覚に陥りそうな激痛に襲われ。

「ごめんね、焦らす方が辛いと思うから」

十分に解されたはずのそこは、それでも熱く滾る欲望を受け入れるにはまだまだ狭くて。
それでも一気に太い部分をも捩じ込まれたそこが悲鳴をあげたのは、侵入してきたその時だけだった。

全てを飲み込み、ヒクヒクと痙攣のような蠢きを魅せる秘部と同調するかのように、はふはふと呼吸を繰り返す俺の胸元を、そっと這わされた大きな手が撫で上げてきて。

「大丈夫?しばらくこのまま……だから安心して」

言いながらそっとそっと抱き締めてくれた。
下半身を支配する圧迫感が、次第にそれだけではない疼きを訴えかけてくる。

「あ…や……っなんか変…っ!」

トクトクと、押し付けられた胸元から響く鼓動の音に誘われるように、また内側からどうしようもない疼きが駆け上がってくる。

痛いはずなのに、気持ち悪いはずなのに、執拗なほどに愛撫を施され敏感になっていた内側が、それだけでない痺れの存在を主張してくる。

「あ…浅葉さ……」

この自分ではどうしようもない疼きをどうにかして欲しくて、みっともないってわかっているのに、気づいたときには誘うように腰を揺らしていた。

「大丈夫だよ。何も心配する事はないから」

それでもやっぱり、胸に生まれるどうしようもない不安と恐怖を視線で訴えかける俺に、何度も大丈夫だと囁き落とされるキス。

「俺の名前を呼んでくれないか?」
「あ……京悟さん…京悟さん、京悟さん…っ!」

バカみたいに名前だけを繰り返し呼ぶ俺に、愛しげに見つめてくれるこの人が、また痺れるような甘いキスをくれる。
と、何の前触れもなくゆるゆると動きを見せ始めたこの人の腰に、思わずビクンと仰け反った俺の身体は、少し荒々しい仕草で抱きこまれた。

「い…や…っぁぁあああっ!あ、あ…っん…っふぁ、あ、あ!」

規則正しい律動を繰り返す動きが、ズンズンと奥深い場所を穿ち、その度にキュウキュウと締め付ける俺の内側の蠢きに、僅かに眉を顰めるこの人の欲望に歪んだ表情が、堪らなく俺を煽るんだ。

必死に伸ばした手で首筋へと縋りつき、自ら求めそうして与えられた深い口付けに、次第に激しくなってくる腰の動きに、そして同時に扱き上げられる楔の熱さに……。
あらゆる箇所から与えられる快感に、もう理性もなにもなかった。

乱れ、痴態を晒し、堪えきれない嬌声を漏らし悶える俺を、この人の恍惚とした表情と瞳が捉え映し出し、その視線ですらも犯され愛撫される。

見出されたばかりの弱点を確実に攻められ、擦り上げられ、ガクガクと震える四肢で絡みつくようにこの人の全てを飲み込もうとする俺は、後戻りが効かないほどに囚われグズグズに溶かされていった。

「ぁぁあああ…っぅん、あ、あ…ダメッ!も…やぁ…も…ぅっ!」

握りこまれた楔が限界の悲鳴を上げ、ダラダラとだらしなく迸らせる先走りの存在が、解放を求めて打ち震える。

「陽生…俺もだ……」

初めて耳に届いた、この人の余裕がない欲望の色を濃く映し出した声色。

「京悟さ…も…お願…っ!あ、あああ──っっ!!」
「陽生…っ!」

それまでにないほどにガツガツと激しく打ち付けられ、揺さぶられるままに身体を撓らせ受け入れようとする俺を、この人の腕がきつく抱き締めたその瞬間……。

頭の中に閃光が走り、目の前が白くスパークした俺は、全ての欲望をその大きな手の中に吐き出していた。

「ふぁ…っ!んん…っ!」

と、ビクビクと解放の余韻に浸る俺の中からズルリと抜け出したこの人の楔が、熱い飛沫を俺の腹へとぶちまける。

「あ…あ…」

腹に感じるドロッとした感触に、この人の欲望を感じ取った四肢がまたブルッと震えた。

ふぅ──…と、細い息を吐き出したこの人が、不意に身を屈めギュッと抱き締めてくれて。
やっぱり何度も何度も、宥めるように髪を梳いてくれる大きな手の温もりに、徐々に意識が奪われていくのを感じていた。

深い眠りへと誘い込まれるその瞬間、「愛している──…」と、耳元で甘く囁かれた睦言に、無意識のうちに伸ばしていた手をその首に絡ませ、「俺も──…」と呟きながら、白濁とした世界にゆっくりと身を沈めた。

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  2007/12/22 きみがくれた空の色<番外編> コメント(4) TB(0) 記事No(13) ▲TOP
きみがくれた空の色<正月企画> act.2
<<京悟side>>

幼い頃からの記憶を辿ってみても、大晦日から正月にかけて両親揃って家にいたという覚えがない。共に会社を支える役職に就く両親は、年末・年始関係なく、忙しく世界を飛び回っているような人たちだったから。
毎年、広々としたリビングの、大きなダイニングテーブルの上に置かれていた、子供に与えるにしては厚みのあるお年玉袋を、兄と2人手にしていた事ははっきりと覚えている。

それが当たり前なのだと思っていたし、特に寂しいと感じた事はなかったけれど。
それでも高校を卒業した頃から、クリスマスイヴの夜を過ごすかのように、大晦日にも毎年ホテルのスイートを取り、その夜限りの恋人を相手にその場限りの愛を囁いていた気がする。
考えてみれば、俺は寂しかったのかもしれないな。だから、その場限りの愛を囁きながらでも、一緒に過ごす女を誘い出していたのかもしれない。

しかし、さすがに今年はそんな気にはなれず。
陽生という存在がこの手の中にある今、一夜限りの恋人の存在などは、全く無用のものだ。
例え陽生と共に過ごせずとも、今の俺にとっては、あいつ以外の温もりなんて何の意味もなさなけりゃ、そんなものでは一瞬の満足だって得られない。

遠くに聞こえる除夜の鐘の音を聞きながら、一人傾ける琥珀色の液体が注がれたグラス。
シンと静まり返った室内の静けさは、痛いほどの冷え込みを見せる外気によって、この家全体が包み込まれているような錯覚すら感じさせられる。

「こんなにも静かだったか…」

ポツリと呟いた自分の声が、やけに大きく響いたような気がして。
こんな気持ちで新年を迎える自分に、自嘲が漏れ出す。

「2年越しで沈み込むのは、さすがに避けたいな」

誰に聞かせるわけでもない。そんな独り言を呟きながら確かめた時間は、新年を迎えるまで残り10分を指し示していて。
今からベッドに潜り込んだところで、結局眠れるわけがないじゃないかと、諦めて手にしたグラスの中身を一気に煽った。

ピンポ〜ン……

その時鳴り響いた、深夜になろうというこんな時間に、失礼極まりないチャイムの音。

「誰だ…?」

普通、こんな時間にチャイムを鳴らすか?
そんな憤りにも似た感情を抱きながら降りた玄関先。

「はい…」
「あ、お…俺…陽生だけど…」

無愛想に言い放った言葉の先に聞こえてきた声に、思わず勢いよく扉を開け放っていた。

「わ…っ!危な…っ…」

開けた扉の向こう、それを避けるように飛びのいたのは、鼻の頭を真っ赤にして、唇から白い息を吐き出す陽生の姿。
少々乱暴だった俺の行動を責め、文句を言いかけたその言葉を遮るように、目の前に現れた愛しい人の身体を抱き締めた。

「ここ玄関先だっての!」

そう抗議の声を上げる陽生に苦笑を返し、その身を解放しながらも唇に落とした口付け。
抵抗される間も与えず、すぐに離した唇に、文句を言いたそうな唇とは裏腹に、その瞳が足りないと言いたげな不満を訴えてくる。

「上がれるかい?」

微笑みかけながら問いかければ、ムッとした表情を浮かべながらも確かな頷き。
その手を引きながら迎え入れた部屋の中、「もういいだろう?」そう耳元に囁きながら、寒空の下を訪れてくれた冷たい身体をしっかりと抱き締めた。

「これないんじゃなかったの?」
「そうだけど……みんな寝ちゃったし。それに…やっぱり、あんたに一番最初におめでとうって言いたくて」

俺の背に手を回し、ぎゅっと抱きつき胸に顔を埋めてきた陽生が発した、照れ隠しのようなくぐもった声色。

「朝には1回帰るけど」
「送っていくよ」
「うん……」

すぐに帰るのではなく、朝までここに居てくれると言うその言葉に、先ほどまでの寒々と冷え切っていた心が、ふんわりと温もりに包まれる。

「冷たくなってしまっているね」

そっと重ね合わせた唇は、やはり冷たくて。

「あんたはあったかい。ねえ…温めてくれるんだろ?」

甘えを含んだ囁きと、仕掛けられる深い口付け。

「もちろんだよ──…」

そんな答えと共に、次第に深く貪りあう熱い塊。
徐々に上がっていくお互いの息遣いと重なるように、遠くで聞こえていた鐘の音がその音を止め、辺りを今度は温かな静寂が包み込む。
あんなにも寒々しかった空気が、陽生の存在ひとつで、こんなにも温かく胸に染み渡る。

「愛しているよ──…陽生」

縺れるようにして倒れこんだベッドの上で、口付けの合間に、唇に乗せ送り込んだ愛の囁き。
満足そうな笑みを浮かべた陽生が、伸ばし絡めてきたしなやかな細い手で、俺の心ごと包み込むように抱き締めてくれた。

「俺はちゃんとここにいるよ──…俺もあんたの事愛してるから…京悟さん…」

新しい年を迎えたその瞬間に紡ぎだされた言の葉は、これまでに感じたことがないくらいに心震わせ。
もう1度強く抱き締めた愛しい存在を、確かめるように、何度も何度も口付けを交わした。

<<fin.>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m



↓これより下は、あとがきコメントになっております。

<<comment>>
最後までのお付き合い、ありがとうございました。
大晦日の日にUPという事で、『きみがくれた空の色』より、プチお正月企画でございます。

今回は前・後編にて、陽生と浅葉の両視点で書かせていただきました。
そしてこの小説が、2007年最後の更新となります。
まだまだ立ち上げたばかりのサイトではございますが、お越しくださり拝読くださった皆様、本当にありがとうございました。

2008年も、不定期更新ながら、頑張って書いていきたいと思いますので、ひとつお付き合いの程よろしくお願いいたします。
皆様、よいお正月をお過ごしくださいませねvv

最後までのご拝読、本当にありがとうございました。

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  2007/12/31 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(17) ▲TOP
きみがくれた空の色<正月企画> act.1
<<陽生side>>

『大晦日の夜から、うちに泊まりにこないか?』

そんな誘いを受けたのは、もう2日寝ると〜お正月〜♪なんて、そんな子供染みた替え歌を歌ってしまいたくなる30日の昼日中。
両親が営む花屋も暮れの休みに突入していて、浅葉さんも冬休み真っ最中だから、俺たちはいつもの公園の芝生の上で逢瀬の時間を過ごしていた。

何もこんな寒空の下、こんなところで座り込まなくとも、デートならいくらでも行くところがあるじゃん!と、そう抗議の声を上げた俺に、「きみとここで会ってると、不思議と気持ちが落ち着くんだ」なんて。
思わず腰が砕けちゃいそうなくらい優しい笑みでそんな事を言われたら、もう何も言えなくなってしまうじゃないか。

まあでも、今日は幸い雲ひとつ見当たらないくらいに晴れ渡ってるし。
ぽかぽかと暖かな陽射しも降り注いでるから、そこまで寒さも気にならないけどさ…。
なんて、そんな遠慮深い事なんて言ってやるもんか!

「寒い!いくら天気よくたってさ、この風は反則だろ!」

いくら暖かい陽射しが降り注いでいようとも、こうも絶え間なく吹く風に晒されていたんじゃあ、どれだけ着込んでいたって身体が冷え切ってしまって堪ったもんじゃない。
しかも、何をするでもなく、ただ昼飯片手に座り込んでいるだけだなんて、凍えてくださいって言ってるようなもんじゃないか。

「こうすれば温かいよ」

肩を竦ませ文句を言った俺に視線を向けてきたこの人が、クスッと笑みを浮かべたと同時に手を伸ばしてきて。
え?と思ってる間もない内に、その腕の中へと抱き込まれる。

「ちょ…ちょっと!?」

そりゃさ、休日のビジネス街の一角に位置するこの公園内に、見渡す限りでは人影もほとんどない状態だけど。でも、一応ここは公共の場なわけで。
しかも、目に眩しいほどの太陽の陽射しが燦々と降り注ぐ、周りに遮るものなど何もない、これ以上ないってくらいの公の場なんだぞ!?

慌てて身を捩り、その腕の中から抜け出した俺を、やっぱりクスクスと楽しそうな笑みを浮かべるこの人の瞳が見つめてきて。
俺にとっては自宅のすぐ目の前だってのにも関わらず、いつ知り合いに目撃されてしまうかもわからないってな状況にも関わらず、不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。

「大晦日の夜から、うちに泊まりにこないか?」

そうして、これまた唐突に切り出された誘いの言葉。

「大晦日って…明日じゃん」
「そう。2人で年越しをしないかい?」
「ん〜…でも、うちは家族で正月を過ごすってのが、恒例行事のひとつだからなあ」

親父とお袋、そして3つ下の妹と4人揃って正月を迎えるというのは、特に強制されたわけじゃないけれど、俺たち家族の暗黙の約束のようなもので。
「新しい年を迎える時には、やはり家族が揃っていないとな」と、俺が高校に上がる年の正月に、親父が酒を片手に嬉しそうに話してた。

高校生にもなれば、友達と2年参りに出かけてみたいだとか、そんな風に思わないでもなかったが。そんな親父の言葉を聞いてしまった後では、それを実行に移すことが妙に躊躇われ。
今になって考えれば、思春期を迎えた息子がそんな事を言い出すだろうと、そう踏んだ親父なりの無言の中の牽制だったのかもしれないけど。

無理だと匂わせた俺の返事に、「それならば仕方がないね」と言ったこの人が、一瞬見せた落胆の表情。

「浅葉さんだって、正月は家族が家にいるんじゃないの?」

そうだよ!泊まりに来ないかと誘いをかけてくるけどさ、そもそも未だ実家暮らしで、一人暮らしをしているわけじゃないこの人の家には、当然家族だっているわけで。
そんな中、のこのこと泊まりになんて行けるかよ。

「うちは……もう長い事正月に家族が揃う事なんてないからね」

穏やかな笑みを浮かべながら、呟くように漏らされたその言葉が、何故かやけに切なくて。
そう言えば、初めてこの人の家に行った時も、家族の誰とも顔を合わさなかったんだっけ。
あれから何度か遊びに行ったけど、いつだってこの人以外にあの家に人は存在しなくて。

「じゃあ…1人なの?」
「そうなるかな?2日の日には、客が来たりするから父も母も帰ってるだろうけど」

付き合い始めてもう1ヶ月になるのに、俺はこの人の事をあまりよく知らない。
あまり自分の事を話すのが好きじゃないのか、この人がどんな仕事をしている人なのか、俺は未だに詳しく知らないんだ。
家にまで行ってるってのに、それもおかしな話だよなって思うし、やっぱり知りたいって思いもあるけど。無理に聞き出すような事はしたくないし。

「でも…ごめん。やっぱり明日は無理だと思う」

もう1度ごめんと呟いて、申し訳なさから俯いてしまった俺の頭を、大きくてゴツゴツとした温かな手が撫でてくれて。

「気にしないで。俺のほうこそ、変な事を言い出してしまって、すまなかったね」

かけられた優しい声と、その中に見え隠れするこの人の切なさに、思わず潤みそうになる瞳を誤魔化すように、今度は俺の方からその首筋にギュッと抱きついた。

「陽生?見られてしまうよ?」

さっきは自分から抱き締めてきたくせに、俺からすると困ったような笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にする。

「ごめんね…でもさ、浅葉さんの都合が悪くなかったら、1日のお昼からでも一緒に初詣に行こう?」
「いいのかい?」
「朝一緒に食卓囲んで、あけましておめでとうって挨拶を交わしさえすれば、それで解放されるからさ」

何だか照れくさくて、抱きついた腕を解かないままに約束を持ち出した俺を、「ありがとう」なんていいながら抱き締めてくれる腕が力強くて。でも、どこか縋るような切なさすら感じられて。
そうしてそっと落とされた口付けに、ここが公共の場だとか家の近所だとか、さっきまで気になっていた状況ですら、頭の奥片隅へと追いやられてしまっていた。

<<to be continued…→next click>> 目次はTOPページ(←クリックでページジャンプ)にございますm(__)m




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  2007/12/31 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(16) ▲TOP
君がくれる恋の色 act.1
<<4万HITキリリク>>

決算期は、何かと忙しいのは世の常。それが、新年度を迎えようとする時期であればなおの事だ。それはなにも、企業に限った事だけではなく、街の花屋にしたって、それは例外ではないらしい。
特に、入社式を控えるこの季節、オフィス街に位置する陽生の両親が営む花屋は、企業からの注文が殺到していた。言ってみれば、年間でも一番の稼ぎ時というわけだ。

高校卒業後、すぐに両親の店で働き出した陽生も、当然店のスタッフの一員として、忙殺される日々を送っていた。
店の営業はもちろんの事、配達しかり、間近に控えた各企業の入社式しかり。ここ2週間は、まともに昼食すら摂れていないのが現実だ。
そんな陽生の忙しさがわからないわけではない。それでも、そんな状況には愚痴のひとつだって零したくなるだろう。

と、同じく決算期を迎え日々に忙殺されながらも、そんな愚痴をしっかりと零してしまっている男が、今日も山積みにされた書類を前に、不機嫌をその表情に貼り付けていた。

「いい加減にしてくださいよ。ここのところ毎日毎日、どれだけため息を零せば気がすむんですか」

秘書である松永の呆れた声に、むっつりとした表情のままで視線を寄越してきたこの男。
齢33歳にして、大企業の取締役部長に上り詰めたツワモノだ…と、本来ならば言ってやりたいところだが。
それなりに実績は積んできたものの、所詮は親の…いや、祖父の七光りでこの椅子に座る、まあルックスはいいから女に不自由した事はない、普通のサラリーマンだと、本人はそう自負している。

「ため息?俺が?」

松永のそんな言葉にも、まるで自覚がないと言わんばかりの、心外だと言わんばかりの抗議の声を上げる京悟には、どうやら本気で身に覚えがないらしい。
無意識のうちに、あれだけのため息を零せるだなんて。そして、それが少なからず、傍にいる秘書に不快感を与えているなどと、およそ思いつきもしないのであろう彼は、ある意味では相当なるツワモノなのかもしれない。

「全く……秋頃からは、真面目に仕事にも取り組んでおられたのに。このクソ忙しい時期に入った途端、見事に腑抜けてしまわれるんですから。こちらとしては、たまったものではありませんね」
「腑抜け……またひどい言われようだな」
「何か、反論がおありですか?」

眼鏡の奥の瞳に冷たく睨みつけられ、その事に関しては、全く身に覚えがないとは言えない京悟は、ぐぅっと言葉に詰まり視線を逸らしてしまう。
確かに、松永の言う事は最もだった。だからといって、仕事の手を抜いているつもりはないのだが、それでも渇きを訴える心はどうしようもない。
そう、今彼は、どうしようもなく渇いていたのだ。

その理由は、4ヶ月ほど前から付き合いだした恋人の陽生と、もう10日以上も会えていないという、そこにあった。
それまでは、昼休みになると毎日のように、会社の真下に位置する公園で、2人で昼食を共にしていたというのに。ここのところお互いが忙しく、ゆっくりと昼食を摂っている暇もないのだ。
この会社と陽生の店自体は、公園と道路を挟んでほぼ向かいに位置しているというのに。物理的な距離は、ほとんど全くといいほど離れていないのに、時間的な距離が2人の逢瀬を阻むのだ。

夜は夜とて、京悟自身の退社時間が遅い事もあり、それこそ連絡ひとつまともに取れやしない。
それでも、幸い日曜日は2人とも休みだから、本来ならば忙しくて会えない時間の分も、休日にはゆっくりと逢瀬の時間を楽しみたいと思うのに。5日前の休日は、陽生が研修だとか会合だとか言って、結局会うことが叶わなかった。
企業勤めをしているわけでもあるまいし、一介の花屋に何の研修があるというのだと、ついそんな愚痴を零し、ひどく怒られてしまったのだ。

『あんたがどんなお偉いさんかは知らないけど、人の仕事を見下したような言い方すんなよな!』

そう言って一方的に電話を切られてしまい、以後まともに連絡を取り合えないまま今に至る。
確かに、あれは大人気なかったと、京悟本人も反省はしている。
日頃、陽生と交わす会話の中からも、彼がどれだけ自分の仕事に誇りを持っているかという事は、わざわざそうと告げられなくてもわかっている事なのに。
でも、あえて言い訳をさせてもらえるならば、決して見下した気持ちがあったわけではなかったのだ。
その時は、すでに会えない時間が1週間近く経過していて。会いたいのに時間がそれを許さない苛立ちが、つい口をついて出てしまっただけの事で。

(本当に、大人気ないな……)

その後、電話をするものの、なかなか出てもらえずに。メールをしたところで、『忙しいから』と実に素っ気無い返事しか返ってこない。
これは相当怒らせてしまったと、会いに行こうにも、自分の方の状況がそれを許さず。
結局ずるずると時間だけが過ぎていくこの状況に、正直まいっていた。

(こんな事は初めてだ…)

これまでに付き合ってきた女達に対して、こんな風に焦りを感じた事などなかった。
珍しく付き合いの続いた女だって、相手が会いたいと望むから時間を割いてやり、それですらも続けば嫌気がさしていた。何よりも陽生と出会うまでのここ数年に至っては、そういった縛られる関係が面倒くさくて、その場限り…ようするにベッドを共にするだけの付き合いしかしてこなかったのだ。
誰かにここまで執着する事などなかったものだから、いくら苛立ちが募っていたとは言え、とことん自分らしからぬ態度をとってしまったと思う。

そんな事を考えながら、またひとつ京悟の口からため息が漏れ出す。
もちろん、本人は無自覚のその行為に、言った傍からこれだと、多少呆れはするものの、ようやく人間らしい感情を表すようになった京悟の変化に、何らかの安心を感じ取っていた松永には、あまりしつこく注意する事はできなかった。

彼の下についてからもう2年。最初はそれこそ人間味をあまり感じられない、ただやるべき事を淡々とこなす、京悟はどこか冷めたところのある人間だった。
それでも、仕事上で常に行動を共にする松永に対しては、それなりに心を開いてくれていたのか、少しずつわがままらしき事を示すようにはなっていた。
本人にその自覚があったのかどうか定かではないが、優秀な兄に対するコンプレックスのようなものが、時折見え隠れしていた状況もあったのだ。

それがここ数ヶ月、驚くほどに京悟のもつ雰囲気が柔らかいものへと変貌を遂げている事に、それこそ行動を共にする者であるからこそ、感じる部分があったのだ。
すっかり日常と化していた、女遊びもなりを潜めている様子だし。何よりも、以前よりもずっと積極的に仕事に取り組むようになってくれたのは、秘書である松永の立場からすれば喜ばしい事なのだが。
しかし、この数日はどうだ。以前にも増して、どこか上の空に考えている事が多い。
どうやら、ようやく見つけたという恋人と、ひと悶着あったようなのだが。いくら仕事上のパートナーと言えども、あまり深く追求するのは本意ではない。

「松永〜いつまでこの忙しさは続くんだ?」
「わかり切った事を」

あまり追求して、ますます落ちられてしまったのでは、それこそ仕事にならない。
だから、こんな京悟の愚痴めいた問いかけにも、松永はいつもと変わらない、淡々とした口調で切り交わす。

「ちなみに、今週末はニューヨーク支店の方に出向いてもらいますので」
「……忘れてた…。それは、俺じゃないとダメなのか?」
「またわかり切った事を…」

総合商社を掲げ、日本国内に留まらず、海外にもいくつもの支店を構えるこの会社では、海外出張も珍しい事ではなかった。
それは平の社員のみならず、まず役員が動くというのがこの会社の形態であり。実際、京悟の両親も、兄である専務もよく海外には渡航しているのだ。
しかしそうなると、今週末も陽生には会えないという事だ。

「勘弁してくれ」
「そっくりそのまま、その言葉を返させていただきますよ」

思わずぼやいたその言葉に、あっさりと切り返され、不満を含んだ視線を向けた京悟に、にっこりと笑みを貼り付けた、松永の眼鏡の奥の瞳が向けられた。

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  2008/04/11 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(56) ▲TOP
きみがくれる恋の色 act.2
<<4万HITキリリク>>

迎えた週末。金曜日からの出張を終え、日本に帰国したと同時に京悟が足を向けたのは、他ならぬ恋人の働く店だった。
日曜日の今日、店自体は定休日なのだが、店舗の2階を自宅とする陽生はその場所にいるはずだ。
空港から向かう中、送信したメールに返信がなかった事が、ほんの僅かな不安を落とすが。それでも、途中で返ってくるだろうと思っていたメールは、結局届く事はなかった。

自宅に戻る事なく、スーツ姿で立った店の前。すでに辺りは陽が落ちかけていて、薄暗い闇を落とし始めた景色の中、思わず立ちすくむ。
店が開店している時ならまだいい。しかし、店正面の入り口のシャッターが降りている中、連絡も取れない状況では、自宅玄関の方に回るしか手段はなく。
陽生との関係が関係なだけに、いきなり両親と顔を合わすはめになるのは、どうしても躊躇われた。と、こんな事を気にする時点で、とことん自分らしくないと、思わず苦笑が漏れるが。

「仕方がない」

本当に、恋を覚えたての未熟な少年みたいだと、自分を揶揄するかのように考えながら、スーツの胸ポケットから取り出した携帯のコールを鳴らす。
数回のコール音の後で、無機質な女の声と共に留守番電話へと切り替わる事を告げられ。
またため息をひとつ零しながら、仕方なく電話を切った。
そして、すぐに思い直し、今度は自宅の方へとかける電話。しかし、そこにも応答はなく、家族揃って出かけてしまっているのかと、諦め再び電話を切った。

陽生の家族は仲がいいらしく、イベント事は未だに家族揃って過ごすのが習慣になっているらしいし、こうした休日には、揃って食事に出かける事も多いと聞いていた。
それも、京悟と付き合いだしてからは、比較的こちらを優先してくれるようにはなったのだが、それでもそんな家族団欒の時間を、ただ自分の我侭で邪魔ばかりできるはずもなく。

来週からは4月に入り、その第1週目さえ抜ければ、この忙しさも一応の落ち着きを見せるだろう。また1週間、まともに会えないのかと思えば、さすがに落ち込みはするが。
2人とも学生と言うわけではなく、それぞれに忙しいのなら仕方のない事だと、そう自分に言い聞かせ、京悟はその場を後にした。

今日は、このまま大人しく帰って、出張で疲れた身体を休めるかと思いはするものの、真っ直ぐ帰ったところで待つ人などないだろう自宅が、このときは妙に寒々しく感じられ。
いくら実家暮らしといえども、迎えてくれる人間がいない事になど慣れ切ってしまっているはずなのに。陽生と出会い、その温もりを知ってからは、その事がやたらと虚しく感じるのだ。

いっその事、実家を出て1人で暮らすかと、最近では真剣にその事を考えている自分がいた。
どちらにしても1人であるという状況には変わりはないものの、やはり実家という事があってか、陽生はあまり京悟の自宅には来たがらなかった。
両親がいる事はほとんどないのだが、自分達の関係を思えば、彼なりに多少の後ろめたさがあるのだろう。それを理解できるからこそ、あまり強くも誘えず。
かと言って、陽生自身も実家暮らしの為、もっぱら外で会う事が多いのだ。

当然だが、外で会おうとすると、自然と制限される状況も多く。
それを考えれば、1人暮らしをする事によって、その部屋で持てる2人きりの時間というのは、かなり魅力的なものである事に違いはなかった。

「部屋を探すか…」

こうも会えない状況が続くと、さすがに真剣に考えたくもなってくる。
駅へと向かう道すがら、そんな事を考えていた京悟の耳に、その時不意に届いた笑い声。
よく知ったその声に、思わず綻ぶ表情を隠しながら視線を向けた先。ちょうど改札口から出てきた恋人の姿を認めた。

「はる……」

声を掛けようとして、その笑顔が向けられている存在に気づき、思わずその声を飲み込む。
別に、何か特別な状況があったわけではない。ただ、陽生が楽し気に話している相手が、彼と同年代くらいの女の子だったというだけだ。
それでも、久しぶりに見たその笑顔が向けられた先にいるのが、自分でないという事実が少し面白くない。

「あれ?浅葉さん?」

その時、立ち止まってしまっていた京悟に気づいた陽生が、その表情にほんの少しの驚きを貼り付け。しかし、当然駆け寄ってくるわけではなく、彼女の速度に合わせた歩調でゆっくりと近づいてくる。

「陽生…」
「どうしたの?ニューヨークじゃなかったっけ?あ、今日までか」

ろくに連絡を取り合わなかった原因が、例の自分の軽率の発言にあったのだと、それを気にしていただけに、どう声を掛けていいものか迷っていた京悟にとって、あまりにもあっさりと、いつもと変わらない調子で話しかけてくる陽生の態度には、多少面食らった。
単に忙しかっただけで、陽生にとってはそこまで気に留める事でもなかったのかと思えば、広がる安堵感はあるものの、ほんの少し複雑な心境も否定しきれない。
気を揉んでいたのは自分だけなのかと、肩透かしを食らった気分で、思わず愚痴を零したくなる自分の幼さに、気まずさすら覚えるのだ。

「ああ、さっき帰国したばかりでね」
「で?会社に寄ったの?相変わらず忙しいみたいだね」
「いや……まあ、うん…」

陽生に会いに、店の前まで行ったのだと、今それを言う事はさすがに躊躇われて。
適当に言葉を濁す京悟へと、陽生の隣に立つ女の子の視線が興味深げに注がれる。

「ねえねえ、ハルくん。お知り合い?」
「え?ああ、ちょっとね」

当然、恋人などと言えるはずもなく、それこそ言葉を濁す陽生を気に留めた様子もなく、向けられた彼女の視線の中に、慣れきった意味を感じ取った京悟は、愛想笑いを浮かべた。
この手の視線には慣れている。それこそ、これまでに何度も向けられてきた類のものだ。

傍から見れば、ルックスが良く物腰の柔らかい京悟は、どうやら自分が女の目を引く類に位置するらしいと、本人がしっかりとそれを自覚をしていた。
そして、その立場を利用し、意識的に女性に対して微笑みを向ける事は、ある意味身についてしまったひとつの癖のようなものだ。そうやって、これまで何人もの女を落としてきたのだから、そういう意味では、この微笑みは最強の武器と言えるだろう。

しかし、今の状況だけで言えば、決して彼女を落とそうという意図があって出た行動ではなかったのだが。それはやはり、染み付いてしまった癖とでも言おうか。
いや、正直な事を言えば、多少の含みがなかったとは言い切れない。
どんな理由があるのかは知らないが、自分からのメールに返信も寄越さず、電話にも出ようとしなかった陽生が、例えその事実に気づかなかっただけとはいえ、自分が少なからず不安を覚えたその時間、あろう事か女と2人でいたのだ。

(まあ…彼女と2人きりだったかどうかはわからないが…)

直接問いただしたわけでもないのに、そんな勘繰りをしてしまう自分が滑稽で、まるで言い訳するかのように心の中で呟きを漏らす。
しかし、どちらにしても、今自分が面白くないと感じてしまっている事は、誤魔化しようのない事実で。
だからこそ向けたその微笑みに、彼女の表情が女のそれへと変化した。

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  2008/04/20 きみがくれた空の色<番外編> コメント(0) TB(0) 記事No(61) ▲TOP